
歯は食べ物を噛み砕いて食べるために重要な身体の組織です。そのため、何らかの理由で歯を失うと、さまざまなリスクが伴います。歯がないことが健康や生活の質に与える影響、歯を失う原因とその予防法、そして失った歯の治療法についてご説明します。
歯がないことの健康リスク
歯を失うことは、口腔内だけでなく全身の健康に影響を及ぼします。具体的なリスクは以下のようなものです。
1. 噛む力の低下による消化不良
歯がないと食べ物をしっかりと噛むことができず、食べ物を塊のまま飲み込むことが多くなるため、慢性的な消化不良を引き起こすことがあります。これにより、胃腸に負担がかかり、消化器系のトラブルを招くことがあります。
2. 顎骨の吸収と顔貌の変化
歯がない部分の顎骨は、噛む刺激がなくなるため吸収しやすくなります。これが進行すると頬から顎の部分の顔の形が変わり、老けた印象を与えることがあります。
また、自然に歯がある方の奥歯で噛みますので、少しずつ骨や筋肉の影響でお顔が左右アンバランスになります。この変化は、少しずつ起こりますので、すぐには気づきませんが、10年くらい経過すると、明らかに左右の違いが出てきます。
3. 発音への影響
前歯や奥歯がないと、正確な発音が難しくなることがあります。特に「サ行」や「タ行」の発音に影響を及ぼし、コミュニケーションに支障をきたすことがあります。
4. 精神的ストレスと社会的影響
歯がない状態は、見た目の問題だけでなく、精神的なストレスを引き起こします。笑顔に自信が持てなくなり、人々との交流が億劫になることがあります。
5. 認知症リスクの増加
噛む回数の減少が脳への刺激を減少させ、認知機能低下や認知症発症リスクを高めることが専門機関でも指摘されています 。
6. 転倒リスクの増加
歯が19本以下・義歯未使用の状態では、バランス能力が低下し、転倒リスクが高まるという調査もあります。
7. 顎関節症や首肩こり・頭痛との関連
咬合バランスが崩れることで、顎関節や周囲筋に余計な負担がかかり、顎関節症・頭痛・肩こりなどを引き起こすケースも多く報告されています。
8. 経済的負担の長期化
早期に対応しないことで、後になって複雑かつ高額な治療が必要になり得ることを明記すると、読者の危機感につながりやすくなります。
歯がないことでの生活の質の低下
歯を失うことは、日常生活にも大きな影響を与えます。以下にその具体的な影響を挙げます。
1. 食事の楽しみの減少
歯がないことで、食べ物の食感や味を十分に楽しむことが出来なくなります。これにより、食事を楽しめなくなることがあります。
2. 食事制限と栄養不足
硬い食べ物や噛みにくい食べ物を避けるようになるため、食事のバリエーションが減り、栄養バランスが崩れることがあります。これにより、栄養不足や健康状態の悪化を招くことがあります。
3. 口腔衛生の悪化
歯がない部分は汚れが溜まりやすく、口腔衛生が悪化しやすくなります。これが原因で、さらに他の歯や歯茎に問題が生じることがあります。
全身への影響:歯がないと身体全体にどんな影響が?
歯がない状態を放置すると、食事や会話だけでなく、脳や筋肉、姿勢、内臓機能など全身のバランスが崩れていきます。以下にその主な影響についてご説明します。
1. 脳への影響:記憶力や認知機能の低下
噛む動作は、脳の海馬(記憶を司る部分)への血流を促進します。歯がない状態では噛む力が弱まり、脳への刺激が減少。その結果として認知症リスクが高まることが複数の研究で示されています。
具体例:
70代女性が奥歯を失って以降、やわらかい物しか食べなくなり、家族との会話も減少。インプラント治療後、食事や会話が増え、認知機能検査の結果も改善。
2. 姿勢・バランスの崩れ:転倒リスクが上がる
歯がないことで噛み合わせのバランスが悪くなると、身体の重心がズレ、姿勢が悪くなります。特に高齢者では、これが歩行の不安定さや転倒の原因となることがあります。
具体例:
義歯を装着していなかった80代男性が、歩行中につまずいて骨折。入れ歯治療後は歩行が安定し、リハビリの進行もスムーズに。
3. 筋力・食欲の低下による体力減退
歯を失うと食べられる食品の種類が限られ、栄養バランスが偏りがちになります。タンパク質やビタミン不足が続くと、筋力の低下、免疫力の低下など、体力の維持にも支障が出ます。
具体例:
硬いものを避けるようになった60代女性が、体重減少と貧血に。栄養士と連携し、咀嚼力を回復させた結果、食事内容が改善され、体調が安定。
4. 顎・首・肩への負担増加:頭痛や肩こりを招く
歯を失ったまま放置すると、噛み合わせのバランスが崩れ、片側だけで噛む癖がついたり、顎に無理な力がかかるようになります。これが顎関節症や肩こり・頭痛の原因になることがあります。
具体例:
奥歯を失ってから片側噛みになった50代男性が、慢性的な肩こりと頭痛を訴えるように。咬合バランスを補綴で整えたところ、症状が大きく緩和。
5. 消化器系への負担:胃腸トラブルが起きやすくなる
歯がないと、食べ物を細かく噛み砕けずに飲み込んでしまうため、胃や腸に余計な負担がかかります。これが胃もたれや便秘などの消化不良を引き起こす原因にもなります。
具体例:
咀嚼不良により、未消化の食べ物が胃腸に溜まりやすくなった70代男性が、胃薬を常用するように。義歯を入れて噛みやすくしたことで薬の使用頻度が減少。
歯がない状態は、見た目や会話だけの問題ではありません。全身の健康、生活の質(QOL)に大きな影響を与えるため、早期の対応が極めて重要です。とくに高齢の方では、「噛む力=生きる力」といっても過言ではないほど、健康と密接につながっています。
歯を失う原因と予防策
歯を失う主な原因と、その予防策について解説します。
1. 虫歯と歯周病の管理
虫歯や歯周病は、歯を失う主な原因です。定期的な歯科検診と適切な口腔ケアでこれらを予防することが重要です。
2. 事故や怪我の予防
スポーツや事故による怪我で歯を失うこともあります。適切な保護具を使用することで、リスクを減らすことができます。
3. 定期的な歯科検診の重要性
早期発見と早期治療が歯を守る鍵です。定期的な歯科検診を受けることで、問題を未然に防ぐことができます。
歯がない場合の治療法
失った歯を補うための治療法には3つの選択肢があります。
- 部分入れ歯
- ブリッジ
- インプラント
1. 部分入れ歯
入れ歯は比較的手軽で費用も抑えられる治療法ですが、慣れるまで時間がかかることがあります。また、定期的なメンテナンスが必要です。材質によって保険診療と自費診療の入れ歯があります。
2. ブリッジ
ブリッジは隣接する歯を削って連結された人工の歯を被せ、橋渡しのようにして失った歯の見た目や機能を補います。治療後の違和感は殆どなく、見た目が自然でしっかりと固定されます。使用する材質によって保険治療と自費診療があります。
3. インプラント
インプラントは、チタン製の小さなネジ状の人工歯根を顎骨に埋め込んで、その上に人工の歯を被せます。チタンは骨と結合する性質がありますので、インプラントの歯は顎骨にしっかりと固定され、天然歯と同様の機能と見た目を得られます。長期間の安定性があり、生活の質を大きく向上させます。自由診療のみとなります。
歯がない場合の治療法の比較表
治療法 | 特徴 | メリット | デメリット | 保険適用 |
---|---|---|---|---|
入れ歯 | 取り外し式の人工歯。部分入れ歯と総入れ歯がある。 | ・保険適用あり(費用が抑えられる)・短期間で作製可能 | ・噛む力が弱い・違和感がある・外れやすいことも | 一部あり |
ブリッジ | 両隣の歯を削って連結する固定式の人工歯。 | ・固定式で違和感が少ない・見た目が自然 | ・健康な歯を削る必要あり・支える歯に負担がかかる | 一部あり |
インプラント | 顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む治療法。 | ・天然歯に近い噛み心地・他の歯に負担をかけない・長持ち | ・外科手術が必要・費用が高額・治療期間が長いことも | 保険適用外(自費) |
歯は何本あれば大丈夫?
大人の歯の数は、親知らずが4本生えている方は32本。親知らずが全くなければ28本です。
歯が何本あれば食事で困らないかというと、一般的には20本以上といわれており、これは入れ歯やブリッジ、インプラントで補った歯を含みます。それを受けて、国では「80歳で20本以上自分の歯がある」ことを目標としています。(8020運動)
しかし20本以上の歯が残っていても、見た目や食事や発音に支障が出れば、治療しなければなりません。特に中央から3番目の犬歯を失った場合、犬歯は噛むために重要な働きをしますので、入れ歯やブリッジ、インプラントで犬歯を補っていても、きちんと機能しているかのチェックはとても大事です。
「歯は何本あれば大丈夫か」や歯の本数と健康の関係(日本歯科医師会 8020運動)
まとめ
歯を失うことは、健康や生活の質に大きな影響を及ぼします。そのため、早めに歯の見た目や機能を補うための治療を受けるようにしましょう。
1本くらいなくても大丈夫、と思われるかもしれませんが、長い目で見るとその欠けた1本は、他の歯に重大な影響を与える場合があります。
失った歯の位置や本数によって適切な治療方法は異なります。歯科医師と相談しながら、ご自身のライフスタイルに一番合う方法で治療をお受けください。