せっかく治療したインプラントを除去しなければならないケースがあります。それはどのような場合に必要なのか、ご説明します。
インプラントの除去が必要になる理由
インプラントの除去は、主に以下のような理由で必要となることがあります。
1. インプラントの周辺組織に問題が起こった
インプラント体の先が下顎管に近い位置になったり、下顎管に当たってしまった場合、しびれが起こることがあります。
またインプラント体が上顎洞へ突き抜けてしまった場合もインプラントを撤去しなければなりません。上顎洞へ突き抜けた場合には、頭痛、鼻づまり、目の奥に違和感が出る、歯に痛みが出るなどの症状があります。
2. インプラントの破損
アバットメントや上部構造が破損した場合は、それらのみを修理・交換すれば問題はなくなります。しかし、インプラント体の破損は、基本的に顎骨からインプラント体を撤去することを検討する必要があります。
3. 細菌感染
インプラント手術時の細菌感染が起こると、腫れ、痛みが起こり、膿が出ることもあります。インプラント手術は衛生管理を徹底して行いますが、手術を行う歯科医院の環境面、衛生面に問題があると、細菌感染のリスクが上がります。
4. インプラント周囲炎
インプラントの周囲の歯茎に歯周病菌による炎症が起こると、歯周病に似た症状になります。これをインプラント周囲炎といいます。
インプラント周囲炎は天然歯の歯周病よりも症状の進行が速く、治療が難しいため、初期のうちに発見して適切な処置を行わないと、インプラントの撤去に繋がります。
重度のインプラント周囲炎は、歯茎の組織が歯周病菌の出す毒素によって壊されて歯茎が下がり、インプラント体が歯茎の表面に露出したり、歯槽骨の吸収が起こってインプラントがグラグラする等の症状が現れます。
そのような状態になると、インプラントの除去を選択肢として考えなければならなくなります。
インプラント周囲炎を起こさないためには、ご家庭での丁寧なセルフケアに加えて、数か月おきに歯科医院でのメンテナンスを必ず受けるようにしましょう。
5. 金属アレルギー
インプラント体は主にチタン合金で出来ており、チタンは金属アレルギーを起こしにくい金属として人工関節などにも用いられています。
しかしごく稀に金属アレルギーを発症する方がおられます。金属アレルギーのお口の中の症状としては、アレルギー性口内炎、扁平苔癬等があります。インプラントがあるためにこのような症状が起こっている為、症状を止めるためにはインプラントの除去が必要になります。
インプラント治療後は必ずメンテナンスを受けましょう
インプラントを長もちさせるためには、必ずメンテナンスを受けて頂く必要があります。当院ではメンテナンスを受けて頂くことが保証制度適用の条件となっています。
メンテナンスは主に3ヶ月に一度程度を基本として、その時々の状態によって間隔を調整します。
歯科衛生士が歯周病検査や歯のクリーニング、歯石取り等を行います。これによりインプラント周囲炎にならないように予防します。
メンテナンスで主にチェックする内容
インプラントは天然歯よりも炎症が起こりやすく、歯周病の進行が速いため、厳密にチェックする必要があります。
家庭でのセルフケア
- 歯磨きを正しい方法で1日2回行う
- インプラントの周囲を歯磨きした時に出血した場合はすぐに歯科医院でのメンテナンスを受ける
歯科医院でのメンテナンス
- 歯科医院でのメンテナンスは3ヶ月に1回を基本にする
- 歯科衛生士は必ずインプラントの周囲や他の歯がきちんと歯みがきされているかを確認し、プロービング(歯周ポケットの深さの計測)を行う。
- プロービングで歯茎から出血が起こる場合は、必要に応じてレントゲン撮影を行い骨吸収が起こっていないか確認する。
- プロービングで歯茎から出血が起こる場合は、必要な処置を行う。
一度入れたインプラントを除去しなければならないケースに関するQ&A
インプラントの除去が必要になる主な理由には、周辺組織の問題、インプラントの破損、細菌感染、インプラント周囲炎、そして金属アレルギーが挙げられます。周辺組織の問題では、インプラントが下顎管に近すぎたり、上顎洞を突き抜けたりすることによるしびれや痛みなどの症状が発生します。インプラントの破損の場合、インプラント体自体が壊れると、顎骨からの除去を検討する必要があります。細菌感染は手術時に起こり得るもので、腫れや痛みを伴うことがあります。インプラント周囲炎は歯周病菌による炎症で、進行が速く、時にはインプラントの除去を要することもあります。金属アレルギーは稀ですが、チタン合金に対する反応として発症し、インプラントの除去が必要になることがあります。
インプラント除去後のメンテナンスには、歯周病検査、歯のクリーニング、歯石の除去などが含まれます。これらのメンテナンスは、インプラント周囲炎を予防し、残っている天然歯の健康を維持するために重要です。歯科衛生士による定期的なチェックは、インプラントの周囲や他の歯の状態を評価し、必要に応じてプロービング(歯周ポケットの深さ測定)やレントゲン撮影を行います。これらのメンテナンスは、インプラントの除去が必要になった原因に応じて、個々の症状やリスクに合わせて調整されるべきです。
家庭でのセルフケアには、正しい方法で1日2回の歯磨きが含まれます。これは、インプラント周囲の清潔を保ち、炎症のリスクを低減するために不可欠です。インプラントの周囲を磨いた際に出血があった場合、これは潜在的な問題の兆候であり、速やかに歯科医院でのメンテナンスを受けるべきです。また、定期的な歯科医院でのメンテナンスに加え、自宅での適切な口腔衛生習慣がインプラントの健康を長期にわたり維持するために重要です。
まとめ
インプラントの除去が必要となるケースは、周辺組織の問題、インプラントの破損、細菌感染、周囲炎、金属アレルギーなど多岐にわたります。
これらの問題を避け、インプラントを長持ちさせるためには、定期的なメンテナンスと正しいセルフケアが欠かせません。家庭での適切な歯磨きや歯科医院での定期チェックが、インプラントの健康を守る上で不可欠です。安心してインプラントを利用するためにも、必ずメンテナンスを受けましょう。
インプラント除去が必要となるケースに関する研究を2件引用します。
1. Cardoso, L. ら (2020) の研究では、治癒キャップ除去後に下顎領域のサブマンディブラースペースに偶発的に移動したデンタルインプラントの例が示されています。このインプラントの移動はルートウィッグのアンギナを引き起こし、外科的に除去されました。この研究は、インプラントの偶発的な移動が重大な合併症を引き起こす可能性があることを示しています。【Cardoso et al., 2020】
2. Ramotar, H. ら (2009) の研究では、上顎洞へ移動したデンタルインプラントの2例が紹介されています。これらのケースでは、画像ガイド付きの経鼻的内視鏡手術によりインプラントが成功裏に除去されました。従来のカルドウェル・ルック手術や歯槽窩からの抽出と比較して、経鼻的内視鏡アプローチは開放手術への転換率が低く、鼻副鼻腔への損傷が少なく、術後の合併症率が低いことが示されています。【Ramotar et al., 2009】
これらの研究は、インプラントの除去が必要となる状況やその管理方法を示しており、特にインプラントの位置異常や移動による合併症が除去の主な理由であることを強調しています。