インプラントの基礎知識

歯を抜いた後のインプラント治療に関する考え方

歯を抜いた後のインプラント治療に関する考え方

歯を抜いた後にインプラントを選ぶべきかどうか、悩む患者さんは多くおられます。インプラントや入れ歯などの選択肢に対して、「何もしない」という方法もあります。しかし、一般的に歯を抜いたままにしておくことは推奨されません。その理由についてご説明します。

歯を補う治療が必要な理由

1. 見た目の問題

歯が抜けたままだと、見た目に影響を与えることが大きな問題となります。特に前歯や犬歯が抜けてしまうと、話したり笑ったりしたときに目立ってしまい、患者さんにとって大きなストレスとなります。

2. 噛む機能の低下

歯が抜けると、食べ物をしっかり噛むことが難しくなり、以下のような影響が考えられます。

  • 片側の歯で噛む癖がつき、噛み方に偏りが出来る。
  • 食事の楽しみが減少し、栄養バランスが乱れる可能性がある。

3. 歯の移動

歯を抜いた後、隣の歯や対合歯が空いたスペースに移動してくることがあります。

  • 隣の歯が倒れてくる。
  • 反対側の歯が伸びてくる。

4. 歯の移動のメカニズム

歯と歯槽骨の間には歯根膜という組織があり、これが歯の動きに関与しています。骨芽細胞と破骨細胞の働きによって、骨が常に新しく生まれ変わり、これによって歯の位置が少しずつ移動していきます。

歯を補う治療の選択肢

  1. インプラント
  2. ブリッジ
  3. 部分入れ歯

1. インプラント

インプラントは、抜けた歯の代わりに人工歯根を顎骨に埋め込み、その上に人工の歯を取り付ける治療法です。見た目も自然で、しっかりと噛むことができます。

メリット

  • 自然な見た目と感触・・インプラントは天然の歯とほぼ同じ見た目と機能を持ち、噛む力も強いです。
  • 長期的な耐久性・・適切なケアを行えば、インプラントは長期間もちます。
  • 隣接する歯への影響が少ない・・ブリッジとは異なり、インプラントは隣の健康な歯を削る必要がありません。

デメリット

  • 外科手術のリスク・・インプラント手術には感染や出血などのリスクが伴います。
  • 高額な費用・・インプラント治療は他の歯科治療と比べて高額です。
  • 治療期間の長さ・・骨とインプラントがしっかり結合するまで数ヶ月かかるため、治療が完了するまでの期間が長いです。

2. ブリッジ

ブリッジは、抜けた歯の両隣の歯を削り、その上に橋渡しのように人工の歯を取り付ける方法です。歯に固定されるため安定していますが、ブリッジの支台にするために健康な歯を削る必要があり、支台の歯を傷める場合があります。

メリット

  • 比較的短い治療期間・・インプラントに比べて治療期間が短く、数週間で完了することが多いです。
  • 費用が比較的低い・・インプラントと比べて治療費用が低めで、保険が適用される場合もあります。
  • 即効性のある解決策・・失った歯を迅速に補うことができ、審美的な問題や咀嚼の問題を速やかに解決できます。

デメリット

  • 隣接する歯への影響・・ブリッジを固定するために、健康な隣の歯を削る必要があります。
  • 長期的な耐久性・・インプラントに比べて耐久性が低く、数年ごとに交換が必要になる場合があります。
  • 骨の喪失・・歯根を置き換えるわけではないため、顎骨の喪失が進行することがあります。

3. 部分入れ歯

部分入れ歯は、取り外し可能な義歯で、金属のクラスプ(バネ)で隣の歯に固定します。取り外しができるため洗って清潔に保ちやすいですが、固定が不安定で、クラスプをかける歯に負担がかかり、歯を傷める場合があります。

メリット

  • 比較的短い治療期間・・インプラントに比べて治療期間が短く、数週間で完了することが多いです。
  • 費用が比較的低い・・インプラントと比べて治療費用が低めで、保険が適用される場合もあります。
  • 即効性のある解決策・・治療期間が短いため、失った歯の機能や見た目を早く補うことができ、審美的な問題や咀嚼の問題を速やかに解決できます。

デメリット

  • 隣接する歯への影響・・ブリッジを固定するために、隣の歯を削る必要があります。
  • 長期的な耐久性・・インプラントに比べて耐久性が低く、数年経つと交換が必要になる場合があります。
  • 骨の喪失・・歯根を置き換えるわけではないため、顎骨の喪失が進行することがあります。

歯を抜いたままにしておくリスク

歯の移動のスピードと個人差

歯の移動には個人差があり、一般的には歯を抜いてから2、3年で移動を始めることが多いですが、中にはほとんど移動しない人もいます。移動の速さの違いには以下のような点が影響します。

  • 年齢:高齢者よりも若い患者さんのほうが歯の移動が早い。
  • 歯並びや噛み合わせの状況。

歯を補う治療を行わない選択肢

抜歯後にトラブルが起こる可能性の有無

歯を抜いた後にトラブルが起こる可能性はありますが、全ての患者さんに起こるわけではありません。実際には、歯を抜いてそのままにしていても問題なく生活している方も多くおられます。以下のような場合は比較的トラブルが起こらないと考えられます。

  • 残った歯が補ってくれるため、特に困ることがない場合。
  • 将来的に大きなトラブルが起こらないと予測される場合。

患者さんの自己判断

歯を補うかどうかは最終的に患者さん自身が決めることが重要です。「8020運動」が示すように、80歳で20本の歯が残っていれば十分に噛むことができるので、ご自身の生活スタイルや健康状態を考慮して判断することが大切です。

セカンドオピニオンの重要性

「すぐにインプラントを入れないと大変なことになる」と言われた場合は、他の歯科医院にセカンドオピニオンを求めることをお勧めします。納得いくまで話を聞いた上で、自分にとって最適な選択をすることが大切です。

歯を抜いた後のインプラント治療について、患者さんがご自身で最適な選択をするためには、歯科医師の説明をしっかりと理解し、生活や健康状態に合った方法を選ぶことが重要です。

まとめ

インプラント治療は、歯を失った後の機能回復と審美性の向上に非常に有効な方法です。しかし、手術に伴うリスクや費用、治療期間の長さなどを考慮しなければなりません。

一方で、ブリッジや部分入れ歯も有力な選択肢として検討できます。それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあり、患者さんの個々の状況やニーズに合わせた選択が重要です。

歯を抜いたままにしておくリスクを理解し、歯科医師との相談やセカンドオピニオンを活用して、ご自身に最適な治療法を選ぶことが出来ます。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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