インプラントの基礎知識

歯を失ってしまうとどうなるの?

歯を失ってしまうとどうなるの

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

前歯を失った場合は、見た目が悪いので急いで治療する方が多いと思います。奥歯の場合は1本歯がなくなったくらいではあまり支障はないかもしれません。しかし長期間放っておくと問題が起こる場合がありますので、ご説明します。

歯を失った時に起こる口内の変化

1本でも歯を失うとお口の中には様々な変化が起こります。

  1. 歯を失うと食事がしにくくなる
  2. 歯がなくなると歯を支えていた骨や歯茎が痩せて減ってしまう
  3. 周りの歯が動いてきて失った歯があったスペースに倒れ込んでくる
  4. 噛み合う相手の歯が伸びてくる
  5. 噛み合わせが悪くなる
  6. 周囲の歯が動いて隙間ば出来たりデコボコになったりするので歯周病や虫歯のリスクが高くなる
  7. 骨が痩せると口の周囲が窪んで老けて見える

お口の中の変化は異常のようなものですが、噛み合わせのバランスが崩れることで、頭痛や肩こりなどが起こりやすくなり、次第に全身への影響が広まります。

多数の歯を失うとどうなる?

さらに多くの歯を失った場合は、ものが噛めなくなって、食べることが困難になります。前歯は食べ物を噛みちぎり、奥歯は食べ物を飲み込みやすくするために擦りつぶします。多くの歯を失うことで食べ物が噛めなくなると、食事で栄養をとって健康を維持することが難しくなります。

あまり噛まなくても飲み込めるものは、主にやわらかい食べ物で、糖質や炭水化物、脂質を多く含んだ食事になりがちです。私たちは咀嚼することで味覚を感じますので、食べ物を味わって食べるという楽しみが減少してしまいます。

歯を失うと顔貌にも影響が出る

前歯を多数失ったり、奥歯で噛めなくなると見た目にも影響を及ぼします。歯を多く失った方は年齢にかかわらず、老人様顔貌といって、ほうれい線が強調されてクシャッと潰れた顔に見えてしまいます。口元の張りがなくなると、一気に老けて見えるようになります。

噛むことの重要な役割

咀嚼することには2つの重要な役割があります。

  1. 噛むことによって食べ物から味覚を引き起こす物質を放出させる
  2. 噛むことによって唾液を分泌させる

味覚には、塩味「しょっぱい」、甘味「甘い」、酸味「すっぱい」、苦味「苦い」、うま味「うまい」などがあります。これらの味覚を引き起こす物質として知られているのは、塩味「ナトリウムイオン」、甘味「糖」、酸味「酸」、苦味「キニン」、うま味「グルタミン酸」などです。

これらの物質は食べ物に含まれていますが、噛むことによって食べ物から放出されて唾液の中に溶け出し、お口の中の味蕾(みらい)という細胞から脳へと伝わって、それらの味を認識することが出来ます。

噛むことによって唾液の分泌が促進されますので、よく噛むと食べ物の味が脳に伝わりやすくなります。

歯を失った時の3つの治療方法

歯を失ったときの選択肢は3つで、①入れ歯(義歯)、②ブリッジ、③インプラントがあります。

治療の選択肢① 義歯(入れ歯)

入れ歯の構造

入れ歯は大きく分けると、1本以上の歯が抜けた場合に失った歯を補う「部分入れ歯」と、上顎または下顎の全ての歯を補う「総入れ歯」があります。

部分入れ歯は歯肉を補うためのプラスチック製のピンク色の床(しょう)の上に人工歯が並んでおり、クラスプと呼ばれる金属のバネを残っている歯にかけて固定します。

総入れ歯は固定するためにひっかける歯がありませんので、床を吸盤のように歯肉に密着させることで固定します。

入れ歯のメリットは、自分で取り外して、こまめに清掃して清潔な状態で使えること。また健康保険の適用で作れますので経済的です。

一方、デメリットは、天然歯と比べると噛む力が弱く、噛みにくい食品があることです。

また床でお口の中を大きく覆う入れ歯の場合は唾液が出にくくなる、味や熱い・冷たいなどが感じにくくなることです。

自費診療の入れ歯では、保険診療の入れ歯のデメリットが改善された素材や形状のものがありますので、担当医にご相談ください。

治療の選択肢② ブリッジ

ブリッジの構造

ブリッジは失った歯を補う「人工歯」とその両隣の歯にかぶせる「クラウン」が一体化されており、両隣の歯を支台にして接着されます。

ブリッジの構造上、失われた歯の両隣の歯が必要です。例えば一番奥の歯を失った場合は、ブリッジはできません。

ブリッジのメリットは、入れ歯よりはよく噛めることと、取り外し不要で違和感がないことです。

保険適用で作れるので経済的ですが、前歯をブリッジにする場合は、審美面から、人工の歯の部分をセラミックにする自費診療が必要になります。

ブリッジのデメリットは、クラウンをかぶせるために両隣の健康な歯を削る必要があることです。支台となる両隣の歯への負担も大きくなり、清掃もしにくくなるので、両隣の歯の寿命を縮めることにつながります。

治療の選択肢③ インプラント

健康な歯とインプラント

インプラントは、他の2つの選択肢に比べて、最も天然歯に近い構造をしており「第二の永久歯」とも呼ばれます。

手術で顎の骨に人工歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工歯を装着します。インプラントに使用されるチタンは人間の身体と親和性が高い金属で、骨と結合するという性質があって人工歯をしっかり固定出来ます。義歯やブリッジのように残った歯に負担をかけることが少ないのもメリットです。

デメリットは、基本的に健康保険の適用外のため(一部適用可能なケースもあります)、他の2つに比べて治療費が高額になることです。そして、インプラント体が骨と結合するのに数ヶ月間はかかりますので、治療期間が長くなります。

歯を失った後の口内の変化に関するQ&A

歯を失うと食事がしにくくなる理由は何ですか?

歯を失うと、食物を咀嚼することが難しくなります。歯がないために食べ物をしっかり噛むことができず、咀嚼力が低下します。

歯を失った場合、歯茎や骨がどのように変化しますか?

歯を失うと、歯を支えていた骨や歯茎が痩せて減少します。歯がないと、骨や歯茎への刺激が減り、それによって骨や歯茎の組織が縮小してしまうのです。

歯を失うと周りの歯にどのような影響がありますか?

失った歯のスペースに隣接する周りの歯が動いてきて、そのスペースに倒れ込むことがあります。これによって噛み合わせが変化し、周囲の歯に負担がかかる可能性があります。

まとめ

どの治療を選択するかを最終的に決めるのは患者さん自身です。歯科医師からしっかりと治療の説明を受けたうえで、疑問や不安があれば遠慮せずに質問して、納得してから治療を選ぶことが大切です。よく調べ、よく考えて、納得のいく治療を受けましょう。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

▶プロフィールを見る