インプラント治療前・治療後の疑問

インプラントが骨と結合しなかったのはなぜ?考えられる原因と対策

インプラントが骨と結合しなかったのはなぜ?考えられる原因と対策

インプラント治療は、失った歯を自然に近い見た目と機能で補うことができる、現代歯科医療の中でも非常に高い成功率を誇る治療法です。しかし、「インプラントが骨と結合しなかった」と聞くと、心配になってしまう患者さんも少なくありません。

「せっかく手術を受けたのに失敗だったの?」「もう一度やり直すしかないの?」と、不安や疑問が頭をよぎることでしょう。でも、ご安心ください。インプラントと骨がうまく結合しなかった場合でも、その原因を正しく理解し、適切に対応することで再治療が可能なケースは多くあります。

本コラムでは、インプラントが骨と結合しなかった場合に考えられる理由をわかりやすく解説し、再治療や予防の方法についても丁寧にご紹介します。治療中の方も、これからインプラントを検討されている方も、ぜひ最後までお読みください。

インプラントが骨と結合しなかったらどうなる?

インプラント治療では「骨との結合=オッセオインテグレーション」が成功の鍵です。しかし、まれに骨と結合しないことがあり、そのまま放置するとインプラントの脱落や再手術が必要になります。この記事では、そのような状況の背景と対策についてわかりやすく解説します。

インプラントが骨と結合しないと、安定せずに脱落のリスクがあります。

骨と結合しないことで起こるトラブルとは

骨と結合しないことで起こるトラブル

インプラントが骨としっかり結合しなかった場合、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。具体的にはインプラントの揺れや痛み、再手術の必要性などです。放置すれば骨の吸収や周囲の歯への悪影響も考えられます。

結合不全は、インプラントの失敗や再治療を招きます。

主なトラブルの例

インプラントが動く・ぐらつく

 → 安定しないため、噛む力に耐えられず揺れが生じます。

痛みや違和感が出る

 → 骨との不完全な接触により炎症や慢性的な痛みが起きることも。

周囲の骨が吸収される

 → 結合しないまま使用すると、骨がダメージを受けやすくなります。

再手術や抜去が必要になる

 → 完全に結合しない場合、インプラントを取り除いて再治療が必要です。

インプラントが骨と結合していない状態で放置すると、機能的にも審美的にも問題が生じるため、早期に対応することが重要です。

インプラントが骨と結合しない場合、脱落や再手術が必要となること、骨吸収や周囲組織への悪影響がある。「歯科インプラント治療指針」(出典:厚生労働省)

なぜ骨と結合できないケースがあるのか?

なぜ骨と結合できないケースがあるのか

インプラントが骨と結合しない理由には、いくつかの要因が複雑に絡んでいます。患者さん側の健康状態や生活習慣、外科的な手技の影響などが挙げられます。

全身状態や生活習慣、手術の要因などが関係します。

主な要因

喫煙習慣

 → 血流が悪くなり、骨との結合を妨げます。

糖尿病などの全身疾患

 → 傷の治りが悪く、インプラントとの結合を阻害することがあります。

骨質の問題

 → 骨が軟らかかったり、量が不足していると結合しにくくなります。

感染の発生

 → 手術後に細菌感染を起こすと、結合が妨げられます。

術後の管理不足

 → 歯磨き不足や定期的な健診を怠ると、周囲組織の炎症につながります。

これらの要因は単独ではなく、複合的に影響を及ぼします。患者さんと歯科医師が協力して予防・改善を心がけることが大切です。

インプラントと骨の“結合”とはどういう状態?

インプラント治療でいう「骨と結合する」とは、インプラント体(人工歯根)があごの骨と直接的かつ強固に結びついた状態、つまり「オッセオインテグレーション(osseointegration)」と呼ばれる現象を指します。これは、チタン製のインプラントが生体と高い親和性を持っているために起こる自然な反応です。

しかし、この結合が妨げられると、以下のようなことが起こります。

  1. 骨の中でインプラントが「浮いている」ような状態になり、力をかけると揺れてしまう
  2. 血液供給や細胞の活動が不十分となり、周囲の骨が徐々に吸収されてしまう
  3. 炎症や感染が広がり、周囲の組織に悪影響を及ぼす可能性がある

なぜこの“結合”がうまくいかないのか?

それは、骨の代謝や再生力に影響を与える以下のような要因があるからです。

  • 局所的な血流不足(喫煙や糖尿病により血管の状態が悪くなっている)
  • 骨の質が脆弱(骨密度が低い、または過去に骨折や手術歴がある)
  • 手術時の過度な熱発生や圧力(インプラント埋入時に骨が損傷する)

つまり、骨との結合は単に「物理的に入れたらくっつく」わけではなく、骨の健康状態、全身の状態、外科手技の精密さ、術後のケアなどがすべて影響している、とても繊細なプロセスなのです。

骨と結合しない理由とその対処法

骨と結合しない理由と対処法

原因が明らかになれば、それに応じた対処が可能です。状態により再手術、骨造成、生活習慣の見直しなど、適切な方法でリカバリーを目指すことができます。

原因に合わせて、再治療や改善策を講じることができます。

対処法の例

  1. 感染が原因の場合 → 消毒や抗生物質投与のうえで、必要ならインプラントを除去して再手術。
  2. 骨が足りない場合 → 骨造成(GBR)などで土台を作ってから再度インプラントを埋入。
  3. 生活習慣の改善 → 禁煙、血糖値のコントロールなど全身管理を徹底します。
  4. インプラントの種類を変更 → 骨との結合性に優れた表面処理が施されたタイプに変更する場合も。

インプラントの結合不全は、原因を明確にすることで再チャレンジも可能です。落ち込まずに、前向きに歯科医師と相談を進めましょう。

骨量不足や骨質不良、感染、全身疾患(糖尿病など)、喫煙、術後の管理不足などが主な要因である。「日本歯科医師会禁煙宣言」(出典:日本歯科医師会)

再治療や予防の方法とは

再治療には慎重な診断が必要です。また、最初の治療から予防に力を入れておくことで、骨と結合しないリスクを大幅に減らすことができます。

再治療と予防の両面でしっかり対応しましょう。

予防と再治療のポイント

  • 術前の精密検査 → CT撮影などで骨の状態を事前に把握します。
  • 適切な衛生管理 → 丁寧な歯磨きと定期的な健診が基本です。
  • 喫煙や生活習慣の見直し → 治療前からの禁煙や食生活の改善が結合を助けます。
  • 経験豊富な歯科医院を選ぶ → 実績のある医院は、成功率の高い治療が期待できます。

治療の成功率を高めるためには、治療を受ける前から準備を始め、術後も長期にわたってメンテナンスを続けることが鍵となります。

まずは専門医の診断を受けましょう

診断を受ける

インプラントが骨とうまく結合しなかった場合でも、落ち込む必要はありません。今後の方針を明確にするためにも、まずは専門医に相談し、適切な診断とアドバイスを受けることが最優先です。

専門医の診断が再治療への第一歩です。

「せっかく時間と費用をかけて治療を受けたのに、うまくいかなかった…」「もう自分にはインプラントは無理なのかもしれない」と、がっかりしたり、自信をなくしてしまう方もいらっしゃいます。

ですが、そのような気持ちは決して特別なものではありません。実際に、同じような経験を乗り越えて再治療に成功した患者さんも多くおられます。大切なのは、「どうしてうまくいかなかったのか」を明らかにし、次にどうすればよいかを冷静に見極めて対策をとることです。

まとめ

インプラントが骨と結合しなかった場合、誰しも不安を感じるものです。しかし、その原因にはさまざまな要因があり、適切な診断と対策を講じれば、再治療や予防が可能です。

この記事でご紹介したように、

  1. 喫煙や全身疾患などの生活習慣・体調管理
  2. 骨の状態や感染症のリスク
  3. 手術後の歯磨きや健診によるケアの重要性

などを理解し、意識することが、成功率の高いインプラント治療につながります。

たとえ一度うまくいかなかったとしても、それで終わりではありません。経験豊富な歯科医師と相談しながら、一緒に最適な解決策を見つけていきましょう。

インプラント治療は、正しい知識とサポートがあれば、再挑戦する価値のある選択肢です。大切なのは、あきらめずに前向きに取り組むこと。まずは一歩踏み出して、信頼できる歯科医院でのご相談をおすすめします。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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