インプラント

インプラントと矯正治療はどっちを先にしたらいい?

インプラントと矯正治療はどっちを先にしたらいい?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラントと矯正治療はどっちを先にしたらいい?

多くのケースでは 「矯正治療を先に行い、その後インプラント治療を行う」 ことが理想的とされています。ただし、すべての人が同じ順番になるわけではありません。欠損の状態や骨量、噛み合わせの力のかかり方など、複数の条件を総合的に判断しなければいけません。

この記事はこんな方に向いています

  • インプラントと矯正治療を同時に検討している
  • どちらを先に受ければ良いか迷っている
  • 治療の順番でリスクが変わるのか知りたい
  • 将来的にトラブルが少ない治療計画を選びたい

この記事を読むとわかること

  1. インプラントと矯正治療の「動く歯・動かない歯」という本質的な違い
  2. 原則として矯正治療が先になる理由
  3. 例外的にインプラントを先に行うケース
  4. 同時進行が可能な場合の考え方
  5. 医院ごとに異なる治療哲学と、患者さんが確認すべきポイント

 

インプラントと矯正治療は、なぜ順番を慎重に考える必要があるの?

インプラントと矯正

インプラントは一度骨と結合すると動かない歯になる一方、矯正治療は歯を少しずつ動かす治療です。この「動く歯」と「動かない歯」の組み合わせは治療設計に直結し、誤った順序で進めると噛み合わせがうまく作れなかったり、治療期間が長引いたりするリスクがあります。

歯が動く治療と動かない治療の組み合わせだからこそ、順番が治療結果を大きく左右する。

矯正治療では、歯は歯槽骨の中で時間をかけて移動します。数ミリの動きが噛み合わせ全体を変え、見た目だけではなく咀嚼機能にも影響します。

一方でインプラントは、埋入すると骨と強固に結合し、動かない人工の歯根になります。この“動かない性質”が大きなメリットであると同時に、治療順序を誤るとトラブルの原因にもなります。

たとえば、先にインプラントを入れてしまうと、矯正治療で周囲の歯を動かした際に噛み合わせがずれてしまい、修正できない状況が生じることがあります。動かせない歯を固定したまま周囲だけを動かすのは、設計上の自由度を大きく制限してしまうためです。

つまり、治療の順番は単なる「好み」ではなく、長期的な安定性を左右する 医学的な判断基準 が存在します。

基本的には「矯正治療が先」と言われるのはなぜ?

基本的には矯正が先

矯正治療では歯が動くため、動かせないインプラントは最後に入れたほうが噛み合わせを理想的に整えやすく、骨や歯の負担も少なくなります。最終的な位置が確定した後にインプラントを入れることで、長期的に安定した仕上がりになります。

動く治療を先に、動かない治療を後にする方が合理的。

矯正治療を先に行うメリットは以下のとおりです。

矯正先行のメリット

  1. 噛み合わせを自由に設計できる

      → 歯を動かして綺麗なアーチを作った後にインプラントを入れる方が、被せ物の形態や噛み合わせの位置を理想的に整えやすくなります。
  2. インプラントの位置がブレない

      → 矯正後の最終的な位置に合わせてインプラントを配置することで、将来の負担が減り、長期的に安定します。
  3. 周囲の歯に矯正力をかけやすい

      → インプラントが先に入っていると、動かせない歯が邪魔になり、歯列の動きに制限が出ることがあります。

矯正治療は、家でたとえるなら「基礎工事」に近い存在です。歯列という土台が整っていないと、その上に建てるインプラント(=新しい歯)が本来の役割を果たしきれません。

例外として「インプラントを先にした方が良いケース」もある?

欠損が広く、矯正治療の力をかける支点が足りない場合は、インプラントを先に入れて“固定源”として利用することがあります。また、骨が急速に減っているケースでは、早期にインプラントを入れて骨量を維持することが優先されることもあります。

例外的にインプラント先行が必要な症例もある。

インプラント先行が適していることがあるケース

  1. 歯が大きく欠損していて矯正の支点が不足している

      → 矯正治療では力をかける“アンカー(固定源)”が必要です。

      → 欠損が広い場合、インプラントを先に入れ、その根本を固定源として利用することがあります。
  2. 骨の吸収が進んでいるケース

      → 歯を失うと時間とともに骨が痩せていきます。

      → 矯正治療を長期間行っている間にさらに骨が減る可能性があるため、早めのインプラントが必要になることも。
  3. 噛み合わせが大きく崩れているケース

      → 噛み合わせを安定させる“支柱”としてインプラントを入れることで、矯正治療を進めやすくなる場合があります。

これらのケースでは、矯正治療 → インプラントという一般的な順序が必ずしも最適ではありません。患者さんの骨の状態・年齢・噛み合わせの癖・生活習慣によって、治療スケジュールは大きく異なります。

治療の順番によってどのようなメリット・デメリットが生まれる?

インプラント

矯正を先にする・インプラントを先にする、の双方にはメリットとデメリットがあるため、症例ごとに慎重な検討が必要です。比較表を使うと違いがよく見えてきます。

最適な順番は人によって違う。

矯正が先か、インプラントが先か

項目 矯正 → インプラント インプラント → 矯正
治療の自由度 歯を自由に動かせるため、噛み合わせ設計の選択肢が広がる インプラントが動かないため、矯正の動きに制限が出やすい
噛み合わせの最終調整 最終位置に合わせてインプラントを入れられ、理想的な噛み合わせを作りやすい インプラントの位置に合わせる必要があり、細かな調整が難しいことがある
長期的な安定性 骨や歯への負担が少なく、長期的にトラブルが起こりにくい 力の方向が合わないと負担が増え、被せ物の破損や噛み合わせのズレにつながる可能性あり
治療期間 インプラント治療開始が遅くなるため全体期間は長め 必要に応じて早く噛めるようになることもある
適している症例 一般的なケースのほとんどに対応しやすい 欠損が大きく矯正の固定源が不足している症例など、例外的ケース
デメリットの傾向 インプラント治療に入るまで時間がかかる 噛み合わせ設計に制限が多く、後からの修正が難しい
  1. 噛み合わせの自由度

      →矯正を先に行うと歯列全体を動かせるため、インプラントの位置決めに大きな自由度が生まれます。
  2. 治療期間

      → 矯正先行の場合、インプラント治療までの期間が延びるものの、長期的にはトラブルが少なく済みやすいという利点があります。
  3. 長期予後

      → 噛み合わせが正しく整った状態でインプラントを入れる方が、被せ物やインプラント体への負担が少なく、寿命を延ばすことが期待できます。

これらを総括すると、矯正先行は「将来の安定性」に優れ、インプラント先行は「治療上の必要性」が高い場合に選択される傾向があります。

インプラントと矯正治療を同時進行することはできる?

インプラントと矯正を同時進行

症例によっては同時進行も可能です。ただし、インプラントが動かない歯である以上、その位置を理解したうえで矯正計画を立てる必要があり、治療の難易度が高くなることがあります。

同時進行は可能だが、綿密な治療計画が必要。

同時進行が選ばれるケースには以下の理由があります。

同時進行が適するケース

  • インプラントの数が少なく、矯正治療との干渉が少ない
  • 生活や仕事の都合で治療期間を圧縮したい
  • 骨吸収の進行を早く抑えたい

ただし、治療計画の自由度は低下します。動かないインプラントを避けて歯を動かす必要があり、設計に制限が出るからです。

同時進行は可能でも、万能ではありません。

「患者さんにとって最適な治療結果を得るためにどの順番が自然なのか」を軸に判断する必要があります。

治療の失敗を避けるために、患者さんは何を確認すべき?

医院ごとに「噛み合わせをどう捉えるか」という治療哲学が異なります。順番の判断には、単に技術だけでなく、医院がどのような価値観で治療しているかを理解することが大切です。

医院の治療方針を理解し、事前の精密検査を受けることが鍵。

治療順序の判断には次のポイントが重要です。

治療前に確認するべき項目

  1. 噛み合わせに対する医院の考え方

      → 噛み合わせを機能重視で考える医院と、見た目重視の医院では、治療順序の判断が変わることがあります。
  2. 精密検査の実施

      → 骨量、歯周病の有無、歯の傾き、噛み癖などの評価なしに治療順序を決めることは適切ではありません。
  3. 複数の選択肢を説明してくれるか

      → 「矯正が先です」と断言するだけではなく、理由と別の選択肢を丁寧に説明してくれる医院は信頼性が高い傾向があります。

医院の姿勢や価値観は、治療の品質に直結します。“どちらが先か”と迷ったら、まずは医院の説明を受け、その考え方が自分に合うかを確認することが大切です。

まとめ

結局、どちらを先にするかはどうやって決めればいい?

一般的には「矯正 → インプラント」の順番が基本になります。しかし、欠損の大きさや骨の状態、噛み合わせの崩れ方など、個々の条件によって最適解は異なります。しっかりと精密検査を行い、複数の可能性を検討しながら治療計画を決めることが、将来の安定した結果につながります。

最終判断は精密診断によって決まる。

インプラントと矯正治療は、それぞれ高度な技術と綿密な計画を必要とする治療です。

順番を誤らないためには、次の3つが特に重要です。

  1. 精密検査で現状を正確に把握する
  2. 噛み合わせ・歯列・骨の状態から治療順序を科学的に判断する
  3. 医院の治療哲学や説明が自分に合っているかを確認する

治療の順番は「どちらが一般的か」ではなく、「あなたの口の中にとって最も自然で、将来の負担が少ないか」という視点で決めるのが何より大切です。

関連ページ:大阪インプラント総合クリニックのインプラントについて

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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