
インプラント治療を行った患者さんにとって、一般的によく流通している歯磨き粉の使用を避ける方もいらっしゃるという事をご存知でしょうか。虫歯や歯周病などの疾患により、抜歯で歯を失くされた方にとって、一つの選択肢であるインプラントの治療後に、どのような歯磨き粉でケアしていくべきかについてご説明します。
フッ素配合の歯磨きって?

一般的によく流通しているものはフッ素配合が多いですが、フッ素が入っている歯磨き粉とはどのようなものでしょうか。現在流通している歯磨き粉の多くには、1本あたりおおよそ1000ppm前後のフッ素が低濃度配合されています。
ppmとはparts per million(パーツパーミリオン)の頭文字をとった単位で、0,000ppm =1%です。つまり、歯磨き粉の0.1%にフッ素が含まれているということです。
フッ素とインプラント体との関係は?

では、なぜフッ素とインプラント体の相性はそれほど良くないのでしょうか。インプラント体は通常チタン製が多いので、フッ素が原因で腐食する可能性があるといわれているからです。
人間の口腔内には唾液が存在します。研究によれば、唾液によりフッ素が希釈されるとの情報があります。唾液でフッ素の濃度が薄まり、インプラント体の腐食を起こすリスクが減るともいわれています。
つまり、お口の状態により、フッ素配合の歯磨き粉を使えるかどうかが決まるという事です。インプラントと天然歯が混在する方も多いでしょう。そのような方はどうすればいいのでしょうか。インプラントと天然歯の本数、お口の状態というポイントにより、歯磨き剤を選びましょう。
平成27年5月に日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会による見解では、インプラントが口の中にある方もフッ素入りの歯磨き粉を使っても良いとのことです。その理由は、①歯磨き粉に含まれるフッ素は唾液によってかなり薄まっている(200~300ppm)ので、インプラントを腐食させるリスクは非常に低い。②フッ素には天然歯の虫歯を予防する効果があるため、天然歯が多く残っている場合にはインプラントが腐食するリスクよりも天然歯を虫歯から守る予防のメリットの方が大きいということです。
例えば、1本しかインプラントをしておらず、他の歯は天然歯が残っている方のケースでは、他の歯の健康を考えてフッ素配合の歯磨き粉を使用していただいても構いません。虫歯になりやすい口内環境の方は、フッ素配合の歯磨き粉によって、インプラントが腐食に至るトラブルよりも虫歯にならないメリットが上回ることが予想できます。
ただ、ほとんどがインプラントで、あと数本しかご自身の歯がない方のケースでは、虫歯のデメリットよりもインプラントを保持することが大切です。インプラント専用の歯磨き粉を使用することをおすすめします。
インプラント用の歯磨き剤の特徴は?

インプラント用の歯磨きとして、よく使用されるものをご紹介します。有名なものは、ジェルコートIPという名称の歯磨き剤です。上部構造や人工歯根に影響を与えがちな、フッ素、研磨剤、発泡剤が無配合のジェルタイプの歯磨き剤です。
もちろん、殺菌作用の高い有効成分である塩酸クロルヘキシジンも含有されていて、歯茎の退縮予防効果も期待できる配合となっています。<参照先:ウエルテック株式会社「ジェルコートIP製品説明」>
先程のジェルタイプのご紹介を読んで、研磨剤もダメなの?と思われる方も多いと思います。リスクを避けるためには研磨剤入りの歯磨き粉は避けましょう。研磨剤入りの歯磨き粉は顆粒タイプが多いです。
歯ブラシで擦る際に、上部構造と歯肉の間に挟まり、プラークコントロールが不完全だった場合、炎症を起こす可能性があります。インプラント周囲粘膜炎が悪化すると、インプラント周囲炎となり、インプラントの動揺や脱落を招く可能性があります。ブラッシングで歯垢のすべてを取り切るというのはセルフケアでは難しい事ですので、インプラントをしたら、研磨剤入りの歯磨き粉は避けたほうが好ましいです。
マウスウォッシュは大丈夫?

この写真の商品は歯科医院で取り扱いをしている薬用マウスウォッシュですが、一般的にも、複数の成分が配合されているマウスウォッシュがあります。液体歯磨き剤(デンタルリンス)は、歯磨きの仕上げとしてはおすすめです。ただし、マウスウォッシュのみでは歯垢は取れません。
歯垢は歯ブラシで磨いて落とさないと、やがて歯石となり、虫歯や歯肉炎、歯周病などのもとになります。定期的に歯科衛生士によるメンテナンスや検診で、歯石の除去を行い、口内環境を整え、インプラントを長期的に保持することが大切です。
まとめ

お口の健康状態は人により異なります。インプラント用の歯磨きについてご自身で判断がつかなければ、担当医やクリニックのスタッフにご相談くださいね。