インプラント

インプラント用の歯磨き粉は必要ですか?

インプラント用の歯磨き粉って必要?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラント治療を行った患者さんにとって、一般的によく流通している歯磨き粉の使用を避ける方もいらっしゃるという事をご存知でしょうか。虫歯や歯周病などの疾患により、抜歯で歯を失くされた方にとって、一つの選択肢であるインプラントの治療後に、どのような歯磨き粉でケアしていくべきかについてご説明します。

インプラント治療後の歯磨き粉について

インプラント治療後のケアにおいて、インプラント専用の歯磨き粉を使用することが推奨される場合がありますが、必ずしも全ての人にとって必要というわけではありません。

1. インプラント用の歯磨き粉の特徴

研磨剤の含有が少ない

インプラント用の歯磨き粉は、通常の歯磨き粉に比べて研磨剤の含有量が少なく、低研磨性です。これにより、インプラントや人工歯を傷つけるリスクが軽減されます。

抗菌成分の配合

多くのインプラント用歯磨き粉には、抗菌成分が含まれており、インプラント周囲の歯肉や歯周ポケットの健康を維持するのに役立ちます。特に、インプラント周囲炎の予防に効果があるとされています。

フッ素の有無

一部のインプラント用歯磨き粉は、フッ素を含んでいないものがあります。これは、フッ素がチタン製のインプラント表面に影響を与える可能性があるとされるためですが、通常の使用では大きな問題にはならないことが多いです。

2. インプラント用歯磨き粉の必要性

口腔内の状態に応じて

インプラント用の歯磨き粉が特に推奨されるのは、インプラント周囲の歯肉が敏感な場合や、インプラント周囲炎のリスクが高い場合です。歯科医師から特に指示がない場合は、通常の歯磨き粉でも問題ないことが多いです。

専門的なケアが重要

インプラントが長期間健康に保たれるためには、歯磨き粉よりも、正しい歯磨きの方法やデンタルフロスの使用がより重要です。歯科医院での定期的な健診やクリーニングも欠かせません。

3. 通常の歯磨き粉の使用

研磨剤が強すぎない製品を選ぶ

通常の歯磨き粉を使用する場合は、研磨剤が過剰に含まれていない製品を選ぶことが推奨されます。これにより、インプラントや人工歯の表面が傷つくリスクを減らすことができます。

フッ素配合の歯磨き粉の使用

フッ素配合の歯磨き粉は、天然歯のエナメル質を保護し、虫歯予防に効果的です。インプラントと天然歯が混在している場合、フッ素配合の歯磨き粉を使用することが有益です。

4. 歯科医師の指導を受ける

個別のアドバイス

インプラント治療後のケアについては、歯科医師の指導を受けることが重要です。インプラント用歯磨き粉の使用が適しているかどうか、口腔内の状態に応じたアドバイスを受けると良いでしょう。

インプラント用の歯磨き剤の特徴は?

コンクールジェルコートIP

インプラント用の歯磨きとして、よく使用されるものをご紹介します。有名なものは、ジェルコートIPという名称の歯磨き剤です。上部構造や人工歯根に影響を与えがちな、フッ素、研磨剤、発泡剤が無配合のジェルタイプの歯磨き剤です。

もちろん、殺菌作用の高い有効成分である塩酸クロルヘキシジンも含有されていて、歯茎の退縮予防効果も期待できる配合となっています。<参照先:ウエルテック株式会社「ジェルコートIP製品説明」>

先程のジェルタイプのご紹介を読んで、研磨剤もダメなの?と思われる方も多いと思います。リスクを避けるためには研磨剤入りの歯磨き粉は避けましょう。研磨剤入りの歯磨き粉は顆粒タイプが多いです。

歯ブラシで擦る際に、上部構造と歯肉の間に挟まり、プラークコントロールが不完全だった場合、炎症を起こす可能性があります。インプラント周囲粘膜炎が悪化すると、インプラント周囲炎となり、インプラントの動揺や脱落を招く可能性があります。ブラッシングで歯垢のすべてを取り切るというのはセルフケアでは難しい事ですので、インプラントをしたら、研磨剤入りの歯磨き粉は避けたほうが好ましいです。

フッ素配合の歯磨きって?

歯みがき

一般的によく流通しているものはフッ素配合が多いですが、フッ素が入っている歯磨き粉とはどのようなものでしょうか。現在流通している歯磨き粉の多くには、1本あたりおおよそ1000ppm前後のフッ素が低濃度配合されています。

ppmとはparts per million(パーツパーミリオン)の頭文字をとった単位で、0,000ppm =1%です。つまり、歯磨き粉の0.1%にフッ素が含まれているということです。

フッ素とインプラント体との関係は?

では、なぜフッ素とインプラント体の相性はそれほど良くないのでしょうか。インプラント体は通常チタン製が多いので、フッ素が原因で腐食する可能性があるといわれているからです。

人間の口腔内には唾液が存在します。研究によれば、唾液によりフッ素が希釈されるとの情報があります。唾液でフッ素の濃度が薄まり、インプラント体の腐食を起こすリスクが減るともいわれています。

つまり、お口の状態により、フッ素配合の歯磨き粉を使えるかどうかが決まるという事です。インプラントと天然歯が混在する方も多いでしょう。そのような方はどうすればいいのでしょうか。インプラントと天然歯の本数、お口の状態というポイントにより、歯磨き剤を選びましょう。

平成27年5月に日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会による見解では、インプラントが口の中にある方もフッ素入りの歯磨き粉を使っても良いとのことです。その理由は、①歯磨き粉に含まれるフッ素は唾液によってかなり薄まっている(200~300ppm)ので、インプラントを腐食させるリスクは非常に低い。②フッ素には天然歯の虫歯を予防する効果があるため、天然歯が多く残っている場合にはインプラントが腐食するリスクよりも天然歯を虫歯から守る予防のメリットの方が大きいということです。

例えば、1本しかインプラントをしておらず、他の歯は天然歯が残っている方のケースでは、他の歯の健康を考えてフッ素配合の歯磨き粉を使用していただいても構いません。虫歯になりやすい口内環境の方は、フッ素配合の歯磨き粉によって、インプラントが腐食に至るトラブルよりも虫歯にならないメリットが上回ることが予想できます。

ただ、ほとんどがインプラントで、あと数本しかご自身の歯がない方のケースでは、虫歯のデメリットよりもインプラントを保持することが大切です。インプラント専用の歯磨き粉を使用することをおすすめします。

マウスウォッシュは使ってもいい?

コンクールF マウスウォッシュ

この写真の商品は歯科医院で取り扱いをしている薬用マウスウォッシュですが、一般的にも、複数の成分が配合されているマウスウォッシュがあります。液体歯磨き剤(デンタルリンス)は、歯磨きの仕上げとしてはおすすめです。ただし、マウスウォッシュのみでは歯垢は取れません。

歯垢は歯ブラシで磨いて落とさないと、やがて歯石となり、虫歯や歯肉炎、歯周病などのもとになります。定期的に歯科衛生士によるメンテナンスや検診で、歯石の除去を行い、口内環境を整え、インプラントを長期的に保持することが大切です。

インプラント用の歯磨き粉の必要性に関するQ&A

インプラント治療後は一般的な歯磨き粉は避けるべきですか?

インプラント治療後は一般的な歯磨き粉は避けた方が良いです。その理由は、フッ素が含まれているためです。インプラント体はチタン製であり、フッ素が腐食を引き起こす可能性があるとされています。唾液によりフッ素が希釈されることで、フッ素配合の歯磨き粉を使用しても、インプラント体の腐食リスクは低くなりますが、お口の状態によっては避けるべきです。

インプラントと天然歯が混在する場合、どのような歯磨き粉を選ぶべきですか?

インプラントと天然歯が混在する場合、天然歯の本数やお口の状態によって歯磨き粉を選ぶべきです。他の歯が多く残っている場合はフッ素配合の歯磨き粉を使用しても良いですが、インプラントが主体の場合はインプラント専用の歯磨き粉を選ぶことをおすすめします。

マウスウォッシュはインプラントのケアに適していますか?

マウスウォッシュはインプラントのケアにおいて、歯磨きの仕上げとしては有用ですが、歯垢の完全な除去には不十分です。インプラントを長期的に保持するためには、歯ブラシによる磨き残しを防ぐためにもマウスウォッシュを併用することが良いでしょう。しかし、歯磨きの代わりにマウスウォッシュだけを使用することは避けるべきです。定期的な歯科衛生士によるメンテナンスや検診も重要です。

まとめ

歯磨き粉

お口の健康状態は人により異なります。インプラント用の歯磨きについてご自身で判断がつかなければ、担当医やクリニックのスタッフにご相談くださいね。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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