インプラント

安全なインプラント治療のためにCT撮影は必要?

安全なインプラント治療のためのCT撮影

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

今日はCTのことを書いてみたいと思います。当院では、治療計画書を作成するために、必ず患者さんのCT撮影を行います。インプラント体を骨に埋め込むためには、このCT撮影が欠かせません。

安全なインプラント治療のためにどうしてCT撮影が必要なのか

インプラント

インプラント治療においてCT(コンピュータ断層撮影)が必要とされる主な理由は、より正確で詳細な画像により、安全で効果的な治療計画を立てるためです。CT撮影がインプラント治療において特に重要な理由は以下のようなものです。

1. 骨の状態を正確に把握するためにCT撮影が必要

骨量や骨密度の確認

CT撮影により、インプラントを埋め込む顎骨の骨量や骨密度を正確に確認できます。通常のレントゲンでは平面的な情報しか得られませんが、CTは3次元的な画像を提供するため、骨の厚みや質を詳細に把握することができます。これにより、インプラントが固定される位置を正確に決定することが出来、術後の成功率が高まります。

2. 神経や血管の位置の把握

神経損傷のリスクを回避

下顎のインプラント手術では、下顎管を通る下歯槽神経が損傷されるリスクがあります。CT撮影により、神経や血管の正確な位置を確認できるため、インプラントを安全に埋入するための計画を立てることが可能です。これにより、術後の神経損傷によるしびれや痛みのリスクを軽減できます。

上顎洞への影響を防ぐ

上顎のインプラント手術では、上顎洞(副鼻腔)の位置を把握することが重要です。CTで上顎洞の状態を確認することで、インプラントの埋入位置や角度を正確に設定でき、上顎洞への侵入リスクを避けることができます。

3. インプラントの最適な位置や角度の決定

シミュレーションによる正確な治療計画

CT撮影を基に、コンピューターでインプラントの位置や角度をシミュレーションできます。これにより、手術の精度が向上し、最適な位置にインプラントを埋め込むことが可能です。シミュレーション技術を活用することで、骨や神経、血管を避けた安全な埋入が行えるため、患者さんの負担を軽減します。

4. 複雑な症例におけるCTの重要性

骨移植が必要な場合

骨の不足や骨密度が低い患者さんには、骨移植が必要になることがあります。CT撮影により、どの部分にどれだけの骨移植が必要かを正確に判断することができ、手術の成功率を高めるための最適な計画を立てられます。

既存のインプラントやブリッジの影響

他のインプラントやブリッジがすでに入っている場合でも、CTで詳細な骨構造を確認できるため、安全な治療が可能です。

5. 患者さんへの負担が少ないCT撮影

放射線量の管理

CT撮影に対して心配される放射線量は、現在の技術では非常に低く抑えられています。医療用CTは、歯科治療に特化した撮影モードがあり、必要最低限の放射線量で詳細な情報を提供できます。これにより、患者さんの安全性が確保される一方で、手術の精度も向上します。

6. 術後のフォローアップにも有効

インプラントの定着状態の確認

CT撮影は術後のフォローアップにも役立ちます。インプラントが骨にどのように定着しているか、また周囲に問題がないかを確認するため、術後のトラブルを早期に発見できる可能性があります。これにより、長期的に安定したインプラント治療が実現します。

安全な治療のためのCTを使ったインプラント埋入シミュレーション

 

左上の画像で見ると骨の断面がとがった山のように見えます。骨の幅も、最低直径が3.5mmのインプラントを入れるにしても約5mmしかありません。

 

 

骨の幅はこの画面上で計測している部位に関して言うと、幅はありそうです。また、上顎洞と呼ばれる骨の中に空洞があるのですが、ここまでの距離もありそうです。

しかし、2本の歯がない部分に2本のインプラントを入れるだけの骨の長さがありません。ぎりぎりで2本入れたとしても、長い歯になってしまい、見た目が悪くなる可能性があります。

歯科用CTは何に使うの?

 

CTは、骨や、歯の欠損の状態、歯根にたまっている膿、親知らず、顎関節、神経や血管の位置など、お口の周囲の組織の状態を見ることができます。

顎の骨の密度と厚みは十分か、骨の形はどうなっているか等を、CTで撮影したデータを専用のソフトウェアに読み込ませて、コンピューターで三次元シュミレーションを行い、分析していきます。そしてインプラントを埋入する位置、インプラントの長さ、種類等が決定されます。

患者さんはお一人おひとり歯の状態や骨の状態が違いますので、CT撮影は必ず行い、インプラントを安全に埋入するためにあらゆる角度からCTの結果を分析します。

ドクター全員による症例の会議のときにも、CTの撮影結果を見ながら話し合います。治療計画を立てる段階で、検査と話し合いがしっかり行われることにより、インプラント治療の安全性はかなり高まります。

最新型の歯科用CTは、一般の医療用CTと比べてX線の量が少なく、患者さんに安全に検査を受けていただくことができます。このように、当院では万全の態勢でインプラント治療に臨んでおります。

CTとパノラマレントゲンの違い

 

セカンドオピニオンで当院を受診された患者さんから、「先日インプラント相談に行った医院で『レントゲンだけでもインプラント手術は大丈夫』と言われた」とお聞きしました。確かに、部位によってはパノラマレントゲン写真だけでも診断できる場合もありますが、安全を期すならばやはりCT撮影をしたいところです。

パノラマレントゲンは2次元的な画像ですが、CTでは三次元的診断が可能になります。そのためCT撮影をすることで骨の厚みや神経が走っている位置を正確に判断することが可能になり、インプラント手術の際に誤って神経を傷つけて神経麻痺を起こしてしまうようなことは決して起こりません。

平面的なパノラマレントゲンだけでは神経の位置を正確に把握するのは難しいケースがあります。また、骨の厚みも平面的な画像だけではわかりません。そんなときはCT撮影による三次元的診断を行うことで安全にインプラント手術を受けることが出来ます。そして治療計画のご説明の際にも、CTのデータを画面で見ながら患者さんにご説明することで、ご自身の骨や血管、神経の様子がよくわかり、患者さんに安心し治療を受けていただけるのではないかと考えます。

10年ほど前は、CTを持っている個人歯科医院はかなり少数でしたが、現在では多くの歯科医院でCT撮影が出来るようになりました。インプラント治療にはCT撮影は欠かせないものですので、多くの歯科医院でCT撮影による正確な診断が行えること、そしてそれが安全で的確な手術につながることは大変喜ばしいことです。

パノラマとCTの違い

  • パノラマ→副鼻腔や上下顎、歯の状態を1枚の平面画像として撮影されたもの
  • CT→パノラマが2次元の画像ですが、CTは3次元の画像です。

まとめ

このように、骨の長さや幅をCTの画面で細かく見ながら、インプラントが埋入可能かどうかのシミュレーションを行っていきます。CTで撮影したデータがいかにインプラント手術になくてはならないものなのか、おわかりいただけましたでしょうか?

CTで撮ったデータをシミュレーションするソフトもバージョンアップを重ね、更に安全な歯科治療が出来るようになりました。インプラント手術は、必ずCT撮影を行っている歯科医院でお受けくださいね。

インプラント治療におけるCT撮影の必要性に関して、以下の研究が参考になります。

1. CT撮影の利点とCTガイドによるインプラント手術 コンピュータ断層撮影(CT)は、インプラント治療計画において最も頻繁に使用されるイメージング手法です。CTを使用した3次元の解剖領域の再現は高い精度と解像度を提供し、最近では多くの先進的な手順で広く使用されています。CTは、患者に放射線を低減した状態で高品質の画像を提供し、歯科医師が練習で使用することも可能です。CT画像に基づくコンピュータガイドのインプラント手術は、より精密な手術計画と予測可能な治療結果を支援します。【Chan, Misch, & Wang, 2010

2. 磁気共鳴イメージング(MRI)とCTの比較 MRIはCTと比較して、イオン放射線への曝露がないことが利点です。MRIは任意の平面で直接断層情報を取得できるため、CTよりも正確なイメージングが可能な場合があります。しかし、CTは歯の配置と関連する手術の計画において、ゴールドスタンダードとして受け入れられています。この研究では、歯科インプラントの安全な配置における断層情報の重要性が強調されています。【Gray, Redpath, Smith, & Staff, 2003

これらの研究に基づき、インプラント治療においてはCT撮影が重要であり、より安全かつ精密な治療計画を可能にすることがわかります。MRIもCTと併用することで、更に正確なイメージングが可能になる場合があります。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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