歯ぎしりはインプラントに悪い影響を与え、失敗してしまうリスクがあります。歯ぎしりのインプラントへのダメージと対策についてご説明します。
目次
歯ぎしりがあってもインプラントは可能。ただし対策を知ることが必要
歯ぎしりによってインプラントに負担がかかって、ダメにしてしまうことがあります。では、歯ぎしりの癖がある方は、インプラントを失敗してしまうので治療が出来ないのでしょうか?
歯ぎしりの癖のある方でも、対策をしっかり行うことでインプラントを長持ちさせられる可能性があります。
歯ぎしりからインプラントを守る方法としては、夜間にインプラントを守るためにナイトガードと呼ばれるマウスピースを装着して寝ていただくというものがあります。
ナイトガードは歯型を取って、患者さんの歯にぴったりのものを作製します。就寝中にナイトガードをつけることで、歯ぎしりによって歯やインプラントにかかる強い力を緩和させ、噛み合わせがずれていくのを防ぐことが出来ます。
歯ぎしりがインプラント治療にとって好ましくない理由
1. インプラントへの過度な負荷
歯ぎしりをすると、通常の咀嚼時よりも強い力が歯やインプラントにかかります。インプラントは天然の歯と異なり、骨と直接結合しているため、強い圧力がかかるとインプラント周囲の骨やインプラント自体にダメージを与える可能性があります。その結果、インプラントが正常に機能せず、最悪の場合、再手術が必要になることもあります。
2. インプラント周囲炎のリスク増加
歯ぎしりは歯やインプラント周囲の歯茎に負荷を与えるため、インプラント周囲炎と呼ばれる炎症が生じるリスクが高まります。この炎症は、インプラントが骨と結合する部分に影響を与え、骨の吸収を引き起こし、最終的にはインプラントの脱落につながる可能性があります。
3. インプラントの破損リスク
歯ぎしりが行われると、インプラントの上部構造(クラウンやブリッジ)が破損することがあります。特にセラミックなどの材料が使用されている場合、ひび割れや破損が発生しやすく、修復や再製作が必要となることがあります。
4. 骨への悪影響
インプラントが骨と結合するプロセス(オッセオインテグレーション)には、一定の安定性が必要です。しかし、歯ぎしりにより過度な負荷がインプラントにかかると、この結合が不十分になり、骨の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。骨が減少した場合、インプラントが支えられなくなり、長期的な維持が困難になります。
5. 治療の成功率が下がる可能性
歯ぎしりがあると、インプラント治療の成功率が低下する可能性があります。特に、重度の歯ぎしりがある場合、インプラントの耐久性が著しく損なわれるため、治療の予後に影響を及ぼすことがあります。
歯ぎしりによってインプラントが失敗するケース
患者さんに歯ぎしりや食いしばりの癖がないかどうかは、インプラントだけでなく、補綴治療をするうえでも大変重要です。
歯ぎしりによって上部構造が擦り減る
セラミックの被せ物が歯ぎしりによる強い摩擦で欠けたり外れたりしてしまう場合があります。上部構造が破損した場合は、上部構造(被せ物)だけを作り変えたら解決すると思われるかもしれませんが、歯ぎしりによってインプラント体(人工歯根)に強い力がかかり続けると、インプラントが骨と結合している部分にダメージを与えてしまいます。
歯をぐっと噛みしめると歯に力がかかりますが、歯ぎしりや食いしばりの時に歯にかかる力は体重の倍以上といわれ、成人男性では100kg以上の力がかかることになります。
毎晩歯ぎしりを行っていると、上部構造の先端が擦り減って歯の形が変わって噛み合わせがおかしくなることもあり、インプラントの失敗の原因になります。
歯ぎしりの揺れによってインプラント体がグラグラし始める
隣の歯との間はぴったりくっついていて、お互いに支え合っています。そのため、歯は左右の方向への揺れには強い構造になっています。しかし、唇側から舌側への揺れには大変弱く、歯ぎしりによって力が加わると、歯の根に大変な力がかかってダメージを与えます。
インプラントの場合は、歯槽骨に埋まっているインプラント体(人工歯根)に過多な力がかかりすぎることによって、インプラントがグラグラしてくるというリスクがあります。グラグラした状態が続くと、やがてインプラントが抜けてしまい、インプラントが失敗することにもなりかねません。
歯ぎしりによる顎関節への影響
歯ぎしりや食いしばりがあると、顎関節への負担も大きなものとなります。下顎は頭蓋骨にぶら下がったような構造になっており、歯ぎしりを行うと下顎を前後左右に動かすことになります。
強い力がかかった状態で、普段行わないような方向に下顎を動かすことで、顎関節に大きな負担がかかり、顎関節症を発症することもあります。
歯ぎしりを続けていると噛み合わせにも変化が起こり、食べ物が噛みにくいことや、頭痛や肩こりの原因にもなります。
しかも、歯ぎしりは眠っている間に起こりますので、力加減をコントロールすることが出来ません。このように、インプラントだけでなく、歯ぎしりによって顎にかかる負担も無視できません。
歯ぎしりは医学的な原因が不明とされています
睡眠中の無意識下で上下の歯を強く擦り合わせてしまうのが歯ぎしりです。歯ぎしりの原因と考えられているのは、ストレス、飲酒、喫煙、カフェインの摂りすぎ、抗うつ剤などの薬の影響などですが、医学的にはっきりとした原因が解明されていないため、原因をなくす治療方法がありません。
そのため、ご本人がいくらやめたいと思っていても、確立された治療法がないのが現状です。ストレスが歯ぎしりの原因の一つと考えられているため、なるべくストレスのない生活を送ることと、睡眠中に歯ぎしりから歯を守るためにナイトガードと呼ばれるマウスピースを付けて寝ていただくというのが、歯ぎしりへの歯科での一般的な対応となります。
歯ぎしりや食いしばりは、医学的にはブラキシズムと呼ばれます。
ブラキシズムとは
- グランディング:歯ぎしり
- クレンチング:食いしばり、噛み締め
- タッピング:上下の歯をカチカチと噛み合わせる
歯ぎしりとインプラント失敗の関係に関するQ&A
歯ぎしりによってインプラントが失敗する理由は主に2つあります。まず、歯ぎしりによってセラミックの被せ物が摩擦で欠けたり外れたりする場合があります。さらに、歯ぎしりによる強い力が継続すると、インプラントと骨との結合部にダメージを与えることがあります。
歯ぎしりや食いしばりの癖があっても、インプラント治療は行うことができます。ナイトガードと呼ばれるマウスピースを装着することで、夜間にインプラントを保護することができます。ナイトガードは個別に作製され、歯にぴったりと合うものです。
歯ぎしりによるインプラントのリスクは主に2つあります。まず、歯ぎしりによってインプラントに強い力がかかり続けると、インプラントと骨との結合部にダメージを与える可能性があります。これによってインプラントが失敗する恐れがあります。また、歯ぎしりによる揺れによってインプラントがグラグラし始め、最終的には抜け落ちる可能性もあります。
まとめ
インプラント治療後はインプラントを長持ちさせるためのメンテナンスをずっと行っていく必要があります。メンテナンスはインプラント周囲炎の予防には効果がありますが、歯ぎしりによるダメージを改善することは出来ません。
そのため、歯ぎしりのある方がインプラント治療を受けるためには、歯ぎしりによる上部構造へのダメージを出来るだけ緩和させ、歯ぎしりの原因と考えられるストレスを減らすようにすることが必要になります。
歯ぎしりそのものをやめる医学上の治療はありませんので、ナイトガードを使うなどの対症療法を続けていくことになります。