
インプラント体はチタンという金属で出来ており、チタンには生体親和性があって骨と結合する特徴があります。生体親和性とはどういうことかご説明します。
目次
生体親和性とは?
生体親和性とは、人工の歯や関節が人体とうまく合うかどうかを表す言葉です。体内での拒絶反応が少ない、または全くない材質を「親和性が高い」と表現します。
人工関節や歯科インプラントなどの医療用インプラント材料は、体内で長期間機能し続ける必要があるため、高い生体親和性が求められます。材料が生体親和性に欠ける場合は、身体が拒絶反応や炎症を起こすリスクが高まります。
一般的に生体親和性の高い材料には、チタンや一部のポリマー、セラミックスなどがあります。これらの材料は、医療の分野で幅広く使用されています。
インプラントにおける生体親和性の重要性
歯科インプラントは、顎の骨に直接埋め込む人工歯根です。インプラントの材料が骨や周囲の組織とどれだけ適合し、拒絶反応を引き起こさないかがインプラント治療の成功の鍵となります。そのため、インプラントには高い生体親和性が求められます。
インプラントに使用される材料
インプラントの主要な材料はチタンおよびチタン合金です。チタンは軽量で強度があり、腐食に強く、さらに生体親和性が非常に高い特徴を持っています。具体的には、チタンは骨との結合(オッセオインテグレーション)が起こりやすいため、インプラントは骨と強固に結びついて、安定した歯の機能を果たすことができます。
これにより、インプラントは自然な歯に近い感覚を提供し、咀嚼や発音においても天然歯のように機能します。骨との結合がしっかりと確立されることで、長期的にわたりインプラントが機能し続け、周囲の骨の吸収を防ぐ効果も期待されます。
生体親和性の向上のための技術
インプラントの生体親和性をさらに向上させるために、以下のような技術が用いられています。
- 表面処理技術・・メーカーによって様々な方法でインプラントの表面を粗くしたり、特殊なコーティングを施す研究が為されています。その結果、骨と結合しやすくなります。
生体親和性と長期予後
生体親和性が高いインプラントは、長期間にわたり安定して機能する可能性が高いです。インプラントが適切に骨と結合し、周囲の組織と調和することで、長期的な成功率が向上します。
医療で使うインプラントとはどういう意味?

歯科分野におけるインプラントとは、「失った歯の代わりに金属製の歯根を顎骨に埋め込むこと」をいいます。
しかし、本来、インプラントとは医療目的で体内に埋め込む器具のことをいいますので、歯だけに限らず、骨折の際の治療で骨に埋め込んだボルトなどのこともインプラントと呼びます。膝などの人工関節は整形インプラントと呼ばれています。
医療で体内に埋め込むことが出来る材質には、大変厳しい基準が設けられています。
- 「人体への毒性がない」
- 「アレルギー反応を起こさない」
- 「発がん性がない」
- 「生体親和性がある」
- 「代謝異常を起こさない」
- 「体の中で劣化・摩耗・分解が起こらない」
- 「強度と弾力性を備えており、かつ安定した材質である」
などです。
チタンってどんな物質?歯科以外では何に使われているの?

歯科用インプラントの材質として良く知られているのはチタン(またはチタン合金)です。医療の分野では歯科インプラントの他に義手、義足、人工関節、人工骨といった整形外科分野で幅広く使われています。
身近なものでは、メガネのフレームやピアスなどのアクセサリー、ゴルフのクラブなどに用いられています。工業設備、建材、塗料、宝飾品としても広く使われ、耐食性・疲労特性に優れているため、航空機・装甲・軍艦・宇宙船・ミサイルなどにも使われています。
チタンが骨と結合するってどうやってわかったの?

チタンの特徴は生体親和性が極めて高い材質であり、骨と結合するということです。
歯科用のインプラント体の材質としてチタンが最適であることを最初に発見したのは、スウェーデンのブローネマルク博士です。ブローネマルク博士は1952年、スウェーデンのルンド大学の教授をしており、骨の中の血流と組織の治療に関する研究を行っていました。
その研究の中でウサギの足の骨にチタン製のネジを埋め込む実験を行っていたところ、
実験結果を調べるためにウサギの足の骨からネジを外そうとしたら、どうしても外れなかったのです。何故外れないのかよく見ると、なんとネジとネジと骨が完全に結合していたのです。このようにして、チタンと骨が結合するということは、実験の中で偶然発見されました。
ブローネマルク博士は光学顕微鏡で骨とチタンが何のトラブルもなく結合していることを確認し、チタンと骨が結合することを「オッセオインテグレーション」と名づけました。
その後、10数年にわたり安全性のテストを繰り返した結果、下は人体が拒絶反応を起こすことなく、半永久的に結合する安全性の高い材質であると確信を得たのでした。
そして、この原理に基づくインプラント・システム(ブローネマルク・インプラント)を開発し、今日のインプラント治療の礎を築いたので
チタン以外のインプラント体の材質にはどんなものがあるの?

今までに多くの研究者がインプラント体の材質を研究しており、真鍮や銅を用いて実験を行いましたが、すぐに腐食して人体に悪影響を与えることがわかり、成功には結び付きませんでした。
他にも様々な材質が使われ、1960年代には金合金、コバルトクロム合金などの金属が
使われましたが、腐食が懸念されたり、炎症を引き起こしやすいという理由で、殆ど使われなくなりました。
1970~1980年代にはアルミナ(人工サファイヤ)、ハイドロキシアパタイトなどが使用されていました。しかし現在では強度の面から、殆どのメーカーが純チタン製またはチタン合金製となりました。
Q&A
人間の身体は異物が入って来ると拒絶反応を起こします。しかしチタンやチタン合金は生体親和性が高いため、身体はチタンを異物ではなく、身体の一部と認識します。チタンをインプラント体(人工歯根)として顎骨に埋め込むと、身体は骨と認識して少しずつ骨と結合していき、数か月経つと完全に骨と結合します。
チタン製のインプラント体(人工歯根)が顎骨に埋め込まれると、骨とインプラント体の間に新しい骨が少しずつ出来始めます。インプラント体が完全に骨に固定されるには、個人差はありますが、2~6ヶ月程度かかります。
まとめ
インプラント治療はチタンという生体親和性の高い材質の発見と開発によって大きく進歩しました。インプラントは自費診療であるものの、今では歯科医療においてかなり一般的な治療として普及しています。
失った歯を補うことで、良く噛めるようになり、食事が楽しく人生をより幸せに過ごせるように、ぜひインプラント治療を受けて頂きたいと思います。