インプラント治療前・治療後の疑問

インプラントが禁忌という人はどんな人?

インプラントが禁忌という人は?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラントは外科手術が必要ですので、禁忌があり、治療を受けられない方がおられます。インプラントが禁忌な方と、無理に行うとどんな問題が起きるかについてご説明します。

全身疾患を持つ方のインプラント治療への影響

インプラントが禁忌とされる理由には、全身疾患が挙げられます。特に次のような病気や状態を持つ方は、治療にリスクが伴う場合があります。

糖尿病

糖尿病を患っている方は、一般的に創傷治癒が遅れるため、インプラント治療後の回復が遅くなり、感染のリスクが高まります。また、血糖値が安定していない場合は、治療が禁忌とされることがあります。

心疾患

心臓病を患っている方、特に過去に心筋梗塞や狭心症を経験した方は、手術中の全身的な負担が大きくなるため、事前に担当医と歯科医師の連携が必要です。場合によってはインプラント治療が推奨されないことがあります。

免疫力が低下している方

免疫抑制治療を受けている方や、免疫不全の状態にある方は、感染症のリスクが高く、インプラント治療が禁忌とされる場合があります。免疫力が低下していると、術後の感染を引き起こしやすく、治癒が遅れるため、インプラント治療を控えるべき状況が多いです。

骨の状態が不十分な方

インプラントを埋め込むためには十分な骨量と質が必要です。しかし、骨粗しょう症や長期間歯が失われたままで骨が退縮している場合、骨がインプラントを支える能力が低下しているため、治療が困難になります。特に、骨粗しょう症治療薬(ビスホスホネート製剤)を長期間服用している方は、顎骨の壊死リスクが高まるため、禁忌とされることがあります。

年齢による制限

高齢者の方は、インプラント治療が難しくなる場合がありますが、年齢そのものが絶対的な禁忌というわけではありません。重要なのは、全身の健康状態と口腔内の状況です。一方で、成長期にある若年層(特に10代)は、顎骨がまだ完全に成長していないため、インプラントの埋入は慎重に判断されます。

心理的・行動的な問題

口腔内のケアを怠る方や、歯ぎしりや食いしばりなどの悪習慣を持つ方も、インプラントの禁忌となることがあります。これらの習慣はインプラントに過度な負荷をかけ、治療失敗のリスクを高めるため、注意が必要です。

病気以外でインプラントを禁忌とする人

病気以外ならばインプラントを行えるかと言われるとそうではありません。インプラントは下記の方も禁忌と言えます。

未成年の方

事故や怪我で前歯を失ったら、インプラントをしたいと思われるのはわかりますが、未成年の方は身体や顎骨(あごの骨)も成長途中です。仮に未成年の方がインプラント手術をされても、顎の骨が成長して歯の位置が動く可能性があります。それにより歯と人工歯がぶつかり、健康な天然歯を損なう可能性があるという理由で、未成年はインプラントを行うことができません。

妊娠されている方

インプラントの手術前には、精密検査が必要です。そのため、レントゲン検査による体の影響があります。また、手術中には麻酔をして出血がありますし、術後には薬(抗生物質・痛み止めの鎮痛薬)を服用してもらうため、薬の飲めない妊婦の方には、行えない歯科治療です。

喫煙者

喫煙はインプラント治療の成功率に悪影響を及ぼします。タバコの成分は血流を阻害し、歯茎や骨の回復を遅らせるため、インプラントと骨の結合が不十分になるリスクがあります。喫煙者は禁煙を勧められる場合が多く、禁煙が難しい場合はインプラントが禁忌となる可能性があります。

絶対的禁忌症と相対的禁忌症を比較

禁忌についても大きくわけると、2つに分かれます。

  • 絶対的禁忌症
  • 相対的禁忌症

絶対的禁忌症と相対的禁忌症はどのような差があるのか、比較しながらご説明します。

絶対的禁忌症(インプラント治療ができない)

上の言葉が示す通り、インプラント治療をできる状態ではないケースの疾患です。

絶対的禁忌症があり、インプラントが出来ない場合

  • チタンアレルギー 人工歯根がチタンであるため、金属アレルギーの症状が出るため
  • 白血病や血友病などの血液疾患 いずれも出血が止まりにくい疾患であるため
  • Ⅰ型糖尿病 遺伝により起こる先天性の糖尿病で若い方や子供でも起きるため、免疫力が低下していて傷が治りにくい
  • 免疫不全 免疫機能の低下により、骨とインプラント体が結合せず、ステロイド系の薬も要因
  • 脳梗塞や心疾患を起こして半年以内の方 薬を服用していて、身体の状態も不安定であるため
  • あごの骨に放射線治療を行っている方 唾液の分泌が放射線により少なく、無理に治療をすると顎骨骨髄炎を起こす可能性があるため
  • ビスホスホネート製剤を服用している方 悪性腫瘍による高カルシウム血症・骨粗しょう症で薬を服用しているのに、無理に治療をすれば顎骨壊死を発症するため

相対的禁忌症(場合によってはインプラント治療が可能)

基本的にはインプラント治療を避けた方がよいとされるが、かかりつけの担当医が「インプラント治療を行える身体状態」と診断すれば、行えるケースの疾患です。

相対的禁忌症でかかりつけ医の診断が必要な場合

  •  Ⅱ型糖尿病 血液中にブドウ糖が多くなるが、血糖値をコントロールできれば可能
  • 高血圧症 血圧抑制の薬を服用で血が止まらないトラブルになりますが、薬のコントロールや静脈内鎮静法を行えば可能
  • 骨粗しょう症 歯槽骨がもろいと歯を支えきれませんが、自家骨移植や骨造成を行えば可能(ビスフォスフォネート製剤服用の方を除く)
  • 重度の歯周病 術後にインプラント周囲炎という症状を起こしやすく、インプラントが脱落するリスクがあるため、あらかじめ歯周病の治療を受ければ可能
  • あごの骨の厚みが足らない方 インプラントをする位置が上顎か下顎かによっても異なるが、サイナスリフトやソケットリフトなどの骨造成を行えば可能
  • 喫煙される方 タバコを吸うと血流が悪くなるため、骨とインプラント体の結合が結合しにくくなるが、禁煙すれば可能
  • 歯ぎしり・食いしばりの癖がある方 睡眠時に上下の歯を合わせるため、インプラントが脱落してしまう恐れがあるが、マウスピースを使用すれば可能

インプラントとは

インプラントの構造

まずはインプラントの治療の流れについて簡単にご説明いたします。インプラントとは、義歯治療(入れ歯・インプラント・ブリッジ)の種類のうちの一つの方法です。虫歯や歯周病、外傷などで歯を失った方には、義歯を入れる治療を歯科医院で行い、改善する治療法です。入れ歯やブリッジは保険適用が可能で、通院回数が少ないメリットがありますが、他の残存歯に大きな負担をかけたり、審美性が劣るというデメリットがあります。

部分入れ歯/入れ歯を安定させるバネをかける隣接する歯・顎の骨 総入れ歯/あごの骨 ブリッジ/欠損部分の噛む力がかかるため隣の歯

インプラントは、フィクスチャー(インプラント体)・アバットメント(連結部分)・人工歯(上部構造)という三つを口腔内に入れる治療です。自由診療の治療で高い費用と治療の期間がかかるというデメリットがあります。

インプラントの禁忌に関するQ&A

インプラント治療の禁忌とは何ですか?

インプラント治療の禁忌とは、治療を避けるべき状態や条件のことを指します。全身疾患や服薬、既往歴などの要因があり、手術のリスクや骨の結合を妨げる可能性がある場合には禁忌とされます。

インプラント治療を禁忌とする主な条件は何ですか?

インプラント治療を禁忌とする主な条件は以下の通りです。 ・全身疾患の存在 ・薬物の服用 ・過去の病歴

病気以外でインプラント治療が禁忌とされる場合はありますか?

病気以外でもインプラント治療が禁忌とされる場合があります。未成年の方や妊娠中の女性もインプラント治療が適さないとされます。

まとめ

インプラント治療は、歯を失った方に有効な治療法ですが、全ての人が受けられるわけではありません。糖尿病や心疾患、骨粗しょう症などの全身疾患がある方、免疫力が低下している方、喫煙者などはリスクが高く、治療が禁忌とされることがあります。また、成長期の若年層や口腔内のケアが難しい方も注意が必要です。インプラント治療を検討する際は、必ず歯科医師と相談し、個々の健康状態に合わせた適切な判断を行うことが大切です。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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