インプラントを検討中の方で、喫煙習慣をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、たばこを吸うとお口に様々なリスクを起こす要因につながります。たばこで起こるインプラントの問題についてご説明します。
目次
インプラントとは?
インプラントとは、虫歯や歯周病、事故などで歯を失ってしまった場合の治療です。まず歯科医師が歯茎を切開し、フィクスチャーと呼ばれる人工歯根を顎に埋入する手術を行います。その後チタン製の人工歯根が骨と結合するのを待ちます。しっかりと結合するまでには数か月かかります。
人工歯根が骨としっかりと結合したら、アバットメントと呼ばれる土台を入れて、上部構造と呼ばれるかぶせ物(セラミック製が多いです)を装着します。これが一般的なインプラント治療の手順で、天然歯のような噛める幸せを手に入れることができます。インプラント後も、歯科医院でメンテナンスをしっかり行えば、インプラント周囲炎などのトラブルを防ぎ、インプラントをを長く保つ事が出来ます。
たばこがインプラント治療に及ぼす影響
1. オッセオインテグレーションの阻害
インプラントは、手術後に骨と結合する「オッセオインテグレーション」というプロセスを経て初めて安定します。しかし、たばこを吸うことで血流が悪化し、骨の回復力が低下するため、このプロセスが上手く働かなくなる可能性があります。その結果、インプラントの安定性が低下し、治療が失敗するリスクが高まります。
2. 歯周病のリスク増加
たばこを吸うことで歯周病のリスクが高まります。歯周病はインプラント周囲炎を引き起こし、インプラントの支持組織が破壊される原因となります。その結果、インプラントが緩む、あるいは脱落するリスクが増加します。
3. 治癒の遅れ
ニコチンやその他の有害物質が含まれるたばこは、傷の治癒を遅らせることがあります。インプラント手術後の傷口が治るのに時間がかかり、感染症のリスクが高まる可能性があります。
4. 免疫機能の低下
たばこを吸うことで免疫機能が低下し、感染症に対する抵抗力が弱くなります。これにより、インプラント手術後の感染症リスクが増大し、治療結果に悪影響を及ぼす可能性があります。
タバコの有害物質は身体にどんな影響を与える?
患者さんがタバコを吸ってしまうと、お口にどんなデメリットがあるのでしょうか。
一般的に広く知られていますが、タバコにはヤニが含まれています。ヤニが歯に付着すると、歯周病菌の原因となる細菌を歯に付着させてしまう一因となると言われています。すなわち、歯周病や歯肉炎などの疾患につながります。
歯周病に関しては、日本歯周病学会のホームページをご覧ください。
喫煙が口腔内にとって悪い理由はいくつかあり、喫煙する人は非喫煙者に比べ、歯周病にかかりやすいという統計的データがあります。タバコに含まれる化学物質が歯肉からの出血を抑えてしまったり、歯肉組織を硬くすることで、歯周病の症状が気づきにくくなるのです。
また、喫煙者は末梢血(血管の中を流れる通常の血液)への影響があるので、通常より歯周病の治り方が悪いそうです。つまり、煙草は歯周病等の疾患になりやすくするばかりでなく、気付き難くし、治り難くする原因といえます。
タバコに含まれる有害物質の身体への影響
有害物質 | 身体への影響 |
---|---|
ニコチン | 歯茎の血流の悪化を引き起こし、歯肉組織の治癒能力を弱めることで、インプラント治療の成功を阻害する可能性がある。 |
タール(ヤニ) | 発がん性がある。 |
一酸化炭素 | 血液中の酸素量を減らし、歯肉組織の治癒を遅らせる。 |
アンモニア | 粘膜を刺激する。 |
カドミウム | 発がん性がある。肺気腫、白血病を誘発する。 |
インプラント前だけたばこを我慢すればいい?
歯科医院のカウンセリングでインプラント相談の際に、患者さんに喫煙習慣があることがわかった場合、担当医はインプラント治療をすぐに開始しすることが出来ません。なぜなら、インプラントは骨と癒合することを前提とした治療なので、喫煙により骨と結合しにくくなる可能性があるからです。すぐに禁煙出来ない場合は、喫煙によりインプラント治療でトラブルを抱えることが予想できます。
喫煙者の方は歯周病を疾患としてお持ちのケースが多く、感染のリスクも高い傾向があります。既に歯周病にかかっておられる場合は、歯茎の治療を終了してから、インプラントを開始することになります。
また、たばこに含まれるニコチンは、毛細血管の収縮を促す作用があり、血行の悪化を招きます。その結果、インプラント体と骨がくっつかず、インプラント治療が失敗となるケースもあります。インプラント治療を安心して受けるためには、タバコを一時的にやめるようにお願いしています。
インプラント治療を終了しても煙草我慢すべき?
インプラントがあごの骨と無事に結合し、土台や被せ物も入れたからといって、再び喫煙することはお勧め出来ません。喫煙を復活させると、歯肉の炎症や口腔内の感染症のリスクを起こしやすい環境にしてしまいます。
煙草を吸うと、お口の中の唾液が減ってしまう傾向にあります。元来、唾液には口腔内を殺菌したり、洗浄する効果があるので、唾液が減るとその効果が薄れ、リスクである歯周病を誘発します。歯周病にかかると、インプラントの動揺や脱落などのトラブルが起きやすくなるため、インプラントそのものの寿命を縮めてしまいます。
このように喫煙にはメリットがありません。なるべく喫煙をやめておくべきかと考えます。
喫煙がインプラントに悪影響を及ぼすに関するQ&A
タバコに含まれる有害物質には、ニコチン、タール(ヤニ)、一酸化炭素、アンモニア、カドミウムなどがあります。これらの物質は、歯茎の血流を悪化させ、歯肉組織の治癒能力を弱め、口腔内の感染リスクを高める可能性があります。さらに、発がん性がある物質も含まれているため、口腔内だけでなく全身にも悪影響を及ぼすことがあります。
喫煙者は非喫煙者に比べ、歯周病にかかりやすくなるとされています。タバコの化学物質が歯肉を硬くし、出血を抑えるため、歯周病の症状が気付きにくくなります。また、末梢血にも影響があり、歯周病の治り方が悪くなることが知られています。喫煙はインプラント治療の成功率を下げる原因となります。
インプラント治療を終えても、喫煙を再開することはお勧めできません。喫煙は口腔内の健康を損なう原因となり、歯周病や感染症のリスクを高めます。唾液の減少により口腔内の防御機能が低下し、インプラントの寿命を縮める可能性もあります。治療後も喫煙を控えることで、インプラントの長期的な成功率を高めることができます。
まとめ
このように、インプラント治療を成功させるためには患者さん側の努力が必要がケースがあります。タバコはインプラントにとって、百害あって一利なしといえます。できる限り禁煙して、インプラント治療を成功させていただきたいと思います。