インプラントの基礎知識

インプラントの材質であるチタンの特性を教えて

インプラントの材質であるチタンの特性を教えて

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラント治療は人工的な歯根を顎骨に埋め込み、強力に固定することで、まるで自分の歯が再生したかのような、しっかりとした噛みごたえを感じることができます。

インプラント治療の人工歯根はチタン製のインプラント体で、ネジのような形をしたものです。これを歯槽骨に埋め込むことで人工歯の土台とし、その上にセラミックやジルコニアなどで作られた上部構造を被せます。

チタンの特製とは?

特性1:骨と結合する

インプラントが骨と結合

インプラント体がチタンであるのには、オッセインテグレーションという作用が関係しています。オッセインテグレーションとは、骨にチタンを埋めこむと、骨の代謝によって骨とインプラント体が強力に結合する現象です。この効果のおかげでインプラント技術は完成を見たと言えますが、逆に言えば人工歯根はチタン製に限られるわけで、そこがインプラント治療が高額になってしまう理由の一つでもあります。チタン自体はありふれた成分なのですが、精錬や加工が難しいのです。

しかし、先日の新聞に載っていた記事で、長野県の工業高校に通う生徒が、短時間でチタン粉末からチタンの塊を作る技術を開発したと報じられていました。これまではチタンを加工するためには1600度という高温でチタンを溶かす必要があったのですが、新しい技術では常温で圧力をかけながら攪拌することで、従来と同程度の強度を備えたチタンの固体を作れるのだそうです。

この技術が実用化されれば、インプラント治療は今よりも受けやすい料金になってくるのかもしれませんね。

特性2:生体親和性が高い

生体親和性

チタンは、生体親和性が高い金属で、アレルギー反応を起こしにくい物質とされています。これは、人体に埋入された際に異物反応を起こしにくく、身体がチタンを「受け入れやすい」性質を持つためです。チタン表面は酸化被膜で覆われており、これが安定した状態を保つことで、周囲の組織との結合を促進します。

生体親和性が高いということは、人体になじみやすく、無害な成分であるということで、金属アレルギーの患者さんにも使うことが可能です。これはインプラントにチタンを使用する大きなメリットの一つです。

特性3:腐食しにくい

チタン

チタンは、酸やアルカリ、塩分などに対する耐食性が高く、さびない金属と言われています。口腔内の環境は湿度が高く、さまざまな食べ物や飲み物にさらされるため、耐食性が高いことはインプラント材質としての重要な特性です。チタンは長期間にわたって安定した状態を保つことができ、劣化しにくい点が特徴です。

チタンは酸素との結合力が強く、表面に酸化被膜を形成し、酸素を通さなくなりますので、それ以上酸化しません。特に海水の中ではプラチナに次ぐ耐食性を持ちます。

特性4:強度が高い

チタンは、アルミニウムなどの軽量金属に比べて軽量でありながら、高い強度を持っています。この特性により、インプラントとして使用する際に、患者さんに過度な負担をかけずに、しっかりと人工の歯をつくります。

特性5:軽くて加工しやすい

チタン製品

チタンは加工しやすい金属であり、精密なデザインが可能です。これにより、患者さんのお口の中に最適な形状のインプラントを製造できるため、フィット感や治療の成功率が向上します。また、軽量であるため、咬合時の快適さも向上します。

特性6:耐久性

チタン製のインプラントは、適切なケアを行うことで長期間にわたって使用することができます。耐摩耗性や耐疲労性にも優れているため、一度埋入されたインプラントは数十年にわたり機能することが期待されます。

インプラントはこんな形をしています

インプラント

インプラントと天然歯の模型で見ると、インプラントの形がわかりやすいです。歯ぐきから下には歯槽骨と呼ばれる骨があり、この骨によって歯が支えられています。インプラント体は天然の歯の根と同じように歯槽骨に埋め込まれて、その上に被せ物をかぶせます。

被せ物はセラミックやジルコニアという材質が主に使われており、隣の天然歯と殆ど変わらない色調に作ることが出来ます。そのため、歯茎の上に見えている部分は、インプラントか天然の歯か一見してもわかりません。

インプラント自体の構造は下の図のようになっています。

インプラントの構造

ネジのような形をしたインプラント体が歯槽骨に埋め込まれ、インプラント体と上部構造(被せ物)を繋ぐ働きをしている物がアバットメントです。インプラント体とアバットメントはチタンまたはチタン合金です。

医療におけるチタンの利用例

歯科以外でもチタンは医療用に広く利用されています。

歯科

  • インプラント
  • 補綴(大臼歯の被せ物、義歯床など)
  • 矯正用のワイヤー

循環器外科・内科

  • 心臓ペースメーカー
  • 人工弁

整形外科

  • 人工関節
  • 人工骨頭
  • 脊椎固定器具

ンプラントの材質であるチタンの特性に関するQ&A

チタンはどうしてインプラントに使われるの?

チタンは骨と直接結合してしっかりと離れない状態になる性質を持つことから、インプラントの材料として使われるようになりました。また、チタンは生体親和性が高く、身体が異物として反応しないため、人体に埋め込んでもなじみやすい金属です。

チタンにアレルギーを起こす人は大変少ないものの、アレルギー反応を起こす人がいないわけではありません。金属アレルギーが心配な方は、事前にパッチテストを受けて頂くことでインプラント治療後にアレルギーを起こすリスクを減らすことが出来ます。

チタンが金属アレルギーを起こしにくいのはなぜ?

チタンが空気に触れると表面が酸化して強固な酸化被膜が出来ます。酸化被膜があるおかげで、純チタンは汗やリンパ液などの体液に触れても溶け出さないため、アレルギーを起こすことがありません。

チタンはどうして骨とくっつくの?

人体は体内に異物が入ると拒否反応を示し、体外に押し出してしまいます。しかしチタンという金属は人体との相性が良く、骨と結合してしっかりくっつく性質があります。そのためインプラントにはチタンが使われるようになりました。

まとめ

インプラントの材料であるチタンの特性についてご説明しました。インプラントがしっかりと噛めるのは、チタンの特性によるものが大きいです。よく噛むことで唾液が増え、虫歯や歯周病の予防に繋がります。そして口の周囲の筋肉を使うことがお顔のアンチエイジングに繋がるなど、ゆっくりとよく噛んで食べることにはメリットがたくさんあります。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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