
インプラント治療後は食べ物の味や感触を今まで通り感じることが出来るのでしょうか?インプラントの前に入れ歯やブリッジを使っていた方にとっては食べた時の感じが変わるのは気になるところだと思います。噛む時の感触については、インプラントの構造が鍵となっています。
天然の歯と同じように食べ物を噛みたいし味わいたい

インプラントはよく噛めるようになるといわれます。インプラント治療を希望される患者さんは、インプラントが食べ物を味わったり、しっかりと噛んだりという、歯の本来の機能を回復してくれることを期待しておられると思います。
今まで入れ歯でよく噛めなかった方や、総入れ歯のプラスチック製の床で上顎の口蓋がすっかり覆われていたために味や温度を感じにくくなっていた方は、インプラントでより食べ物を味わうことが出来るようになり、お悩みが改善されることが期待出来ます。
インプラントの構造のお話

インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込み、人工の歯をかぶせる治療法で、3つの部分から出来ています。
- インプラント体(人工歯根、フィクスチャー)
- アバットメント(支台)
- 上部構造(被せ物)
インプラント体はネジのような形状をしており、顎の骨に直接埋め込まれます。インプラント体と上部構造をつなげるために、中間にアバットメントと呼ばれる小さな部品を取り付けます。最後に上部構造を取り付けると、インプラントの完成です。
インプラント体はチタンで出来ており、数カ月の期間をおくと骨としっかり結合する性質をもっています。そのためグラグラしない固定された人工歯根となるのです。チタンが骨と結合することはオッセオ・インテグレーションと呼ばれ、この発見が今日の歯科インプラント治療の礎となりました。
歯根膜がないと噛む時の感じ方が違う?

天然歯と骨の間には、歯根膜という薄い膜があり、ものを噛む時にクッションのような役割をしてくれます。歯を抜歯すると、歯根膜は歯と共に失われてしまいます。そのため、インプラントには歯根膜がありません。
インプラントの治療後に、まれに噛んだ時の感触が鈍く、食べ物の味が落ちたように感じる方もおられますが、これは歯根膜という組織が関係しています。
天然の歯の歯根は、あごの骨との間に歯根膜があり、歯と骨が直接つながっているわけではありません。歯でものを噛む時は、歯根膜がクッションのように弾力をもち、沈んだり緩んだりという微細な力の伝わり方をし、その刺激が噛む感覚となって脳に伝わります。
しかし歯根膜は抜歯と共に失われてしまいますので、インプラントは人工歯根が直接骨と密着する状態になっており、歯根膜のような微細な感覚を脳に伝えるためのセンサーがありません。そのため、噛む時の僅かな感覚が脳に伝わりにくいということは、確かにあります。
歯根膜が失われていることの影響について

インプラントの特徴として、自分の歯のようによく噛めるというメリットがあるため、歯根膜がないと噛む時の僅かな刺激を感じられなくなります。その結果、インプラントでは天然歯の時よりも強く噛みすぎてしまう傾向がみられます。
インプラントの歯はよく噛め過ぎるので、力を入れて噛みすぎないよう注意が必要!! 噛みすぎると上部構造や噛み合う歯の傷みが早まる恐れがあります。
インプラントの上部構造は多くの場合、オールセラミックやジルコニアが使用されます。セラミックは天然の歯よりも強度が高いため、強く噛んでもその加重に耐えられます。しかし、向かい合っている噛み合う相手の歯が天然歯の場合、セラミックよりも弱いので、あまり強く噛みすぎると噛み合う相手の歯や周りの歯に負担がかかり、傷めてしまう可能性があります。
つまり、噛む時の感触が僅かに変わっているので、それに慣れるまで少し違和感を感じる患者さんもおられるかもしれません。その違和感を出来る限り少なくするために、インプラントの上部構造を装着した後は、丁寧に噛み合わせの調整を行います。
まとめ
インプラントは構造の上では人工歯根をもち、天然の歯とよく似ているのですが、歯根膜がありません。そのために僅かに噛む感触が天然歯とは違いますが、ほぼ同じようによく噛めます。そして、総入れ歯とは違ってプラスチックの床が口蓋を覆うことがないので、食べ物をよく味わえます。