インプラントはどのくらいもつのか、その寿命が気になる方も多いでしょう。今日は、インプラント治療がどのくらいの期間もつものか、長持ちさせる方法についてご説明します。
インプラントはどのくらいもつ?
インプラントの寿命は、平均的に約10~15年前後と言われていますが、メンテナンスをしっかり行えばもっと長くもたせることが可能です。
インプラントの寿命に影響を与える症状や生活習慣など
再びインプラントの手術や費用をすることになれば、心身共に負担が増えてしまいます。インプラントの手術後に下記のような問題があるケースは、改善が必要です。
喫煙の習慣
タバコにはインプラントだけではなく、血流を阻害し、口腔内の唾液を減らすニコチンやタールが含有されています。インプラント体を骨に埋める時のみ禁煙をし、インプラント手術が終わってからまたタバコを吸っているという方がおられれば、禁煙をおすすめします。
タバコにより血液の流れが悪くなると歯茎に栄養や酸素が行き渡らなくなり、自浄作用のある唾液の分泌が減るとインプラント周囲炎になるリスクが上がるという理由からです。
噛み合わせに違和感がある
インプラント処置の際にしっかり噛み合わせを歯科医師に確認してもらっても、インプラントと対合歯の噛み合わせが合わなくなるということは考えられます。
咬む時に片側ばかり咬む・うつ伏せに寝る・頬杖などの日常の習慣でずれてしまいます。インプラントは骨に埋入しているため、力がかかってしまい、痛みを覚え、動揺や脱落を起こすという可能性があります。
歯ぎしりや食いしばりをしている
歯ぎしりや食いしばりの癖のある方は、インプラントに悪影響を与えます。
インプラントに日常的に強い力がかかってしまうと、インプラント体がぐらぐらし始める可能性がありますのでブラキシズムの自覚があれば、歯を守るためのマウスピースの使用をおすすめします。
糖尿病や骨粗しょう症・高血圧などになった
インプラント埋入時にはこのような全身疾患になっていなくても、その後疾患になる方もおられます。その場合、免疫力が低下するため、インプラント周囲炎を起こす可能性が通常の方と比べて高くなります。
インプラント周囲炎を引き起こした
インプラント治療後に最も気を付けなければいけない病気です。天然歯の方が歯周病になって悪化すると、歯が抜けてしまうのと同様で、インプラント周囲炎はインプラントの周囲で歯周病が起こる状態です。
食べかすが歯に付いたまま一定の時間が経過すると、最近の塊である歯垢(プラーク)に変わります。インプラント周囲の歯茎が歯周病菌に感染して炎症が起こります。インプラントの周囲で炎症が悪化するとインプラントがグラグラし始め、最終的には抜けてしまいます。
インプラントを長持ちさせる方法
インプラントは適切な処置を定期的に受け、きちんと口腔内の状態を管理できれば、10年と言わず更に長く保つことができる可能性があります。
正しい方法で歯磨きをする
しっかりと磨けていればインプラント周囲炎にはなりませんが、磨き残しがあると歯周病のリスクが高まります。磨き残しが起こりやすいのは以下のような場所です。
- 舌側部分(歯の裏側)の奥歯が磨けていない
- 頬側(歯の表側)の奥歯が磨きが足りず、歯垢が残っている
歯科医院で患者様ご自身の歯みがきの癖を知ることはとても大切なことです。
定期通院でメンテナンスを受診する
天然歯でも健康状態を維持するために痛みや腫れがある前に予防歯科へ行くことが大事です。インプラントも同じと言えます。定期健診は以下のような内容です。
- インプラントや歯茎に異常がないかをチェックする
- 噛み合わせが合っているかをチェックする
- 歯垢や歯石を除去するクリーニングを行う
- 歯磨き指導
メンテナンスを定期通院で受診すると、インプラントの動揺や脱落を防止することができます。
ブリッジ、入れ歯とインプラント
虫歯や歯周病、事故や転倒による外傷で歯を失った方に歯科医師が行う治療には、ブリッジ・入れ歯・インプラントの三種類があります。
他の治療方法とインプラントを比べる
ブリッジや入れ歯は保険適用内の治療が可能なため、費用を安くすることが可能です。入れ歯は欠損部分の隣の歯に金属のバネをかけたり、ブリッジは欠損部分を支えるために両隣の歯を削って被せるデメリットがあります。そのため、いずれの治療法も咬合時に欠損部分の隣の歯に負担がかかるため、残存歯の健康を脅かす可能性があります。 それに比べてインプラントは、保険適用外の治療対象となるため自由診療制となり、歯科医院により料金が異なるため、費用は高いです。ただし、インプラントは手術により人工歯根を埋入し自立しているため、他の残存歯に悪い影響を及ぼすことがありません。自費治療であるので保険適用内の限定された材料ではなく、審美性が高い素材を使用できます。天然歯と比べても見た目の差がないような緻密な人工歯を作製することが可能です。
インプラントの構造
簡単にインプラントの構造についてご説明します。
顎骨に埋め込むインプラント体(フィクスチャー・人工歯根とも呼ぶ)
生体親和性の高いチタンが多いが、金属アレルギーの方のためにジルコニアを素材にすることもある
インプラント体に連結し、人工歯とつなぐ役割のアバットメント
生体親和性の高いチタンを素材とすることが多いが、チタン合金・金・セラミックを使用することもある
歯としての見た目になる上部構造(人工歯)
- オールセラミック(前歯に向く美しさがあるが、強い力がかかると割れる可能性がある)
- ジルコニアセラミック(奥歯で噛み合わせても問題ない強度だが、透明度にかけるためオールセラミックより審美性は低い)
- ハイブリッドセラミック(歯科用プラスチックとセラミックを混ぜた材料なので値段は安いが、ジルコニアセラミックやオールセラミックより審美性に欠ける)
保険適用内のプラスチック製の入れ歯の寿命は約4~5年・金属製の入れ歯ならば約5年程度 ブリッジの寿命は約7~8年程度
インプラントの治療の流れ
インプラントで治療を行う際に、クリニックではカウンセリングや精密検査を行い、顎の骨(顎骨)の量や厚み、高さを骨の質などを調べます。
それらに問題がなければ、一回法と呼ばれるインプラント治療法が可能ですが、基本的には骨が足らない方が多く、インプラントは二回法で行うことが多いです。
以下は二回法と呼ばれる術式の治療の流れです。
- 一次手術インプラント埋入局所麻酔を行って歯茎を切開し、顎の骨にドリルで穴を開けて人工歯根(インプラント体)を埋め込む
- 待つ期間骨と人工歯根の結合骨と人工歯根がしっかりと結合するまでそのまま数ヶ月待つ
- 二次手術アバットメントを連結インプラント体の先にアバットメントを連結する。アバットメントはインプラント体と上部構造を繋ぐ働きをする
- 上部構造の型取り上部構造の型取りと作製歯茎から上に見えるセラミックの被せ物の部分を製作する
- 完成上部構造の接着上部構造を接着またはスクリューで固定して、インプラントが完成する
ただし、すべての手術を終えたら、インプラントは終わりというわけではありません。治療終了後に定期健診を受けていただくことがインプラントの長持ちに繋がります。
インプラントの寿命に関するQ&A
インプラントの寿命を延ばすためには、正しい歯磨きを行い、定期的なメンテナンスを受けることが重要です。また、口腔内の健康状態を管理するために定期的な通院が必要です。
インプラントの手術後に注意すべき習慣としては、喫煙、噛み合わせの違和感、歯ぎしりや食いしばり、全身疾患(糖尿病や骨粗しょう症、高血圧など)へのなり方、およびインプラント周囲炎の発生が挙げられます。
インプラントが不安定になったり脱落したりした場合は、再建手術が必要になることがあります。
まとめ
インプラントは決して安い費用ではありません。インプラントを検討される場合は、「事故などなく症例数豊富な安全な医院か」「安心して治療をお任せできるドクターやスタッフであるか」など費用や治療計画以外にも大事なポイントがいくつかあります。 カウンセリングを行っている医院も多いので(当院は予約制で無料です)、一度お気軽にご相談ください。
デンタルインプラントの寿命に関する情報は、以下の2つの論文で詳細に説明されています。
1. 長期間にわたるデンタルインプラントの臨床成績
– この研究では、4247人の患者に対して行われた10871本のデンタルインプラントの長期臨床成績を調査しました。平均4.5年(最長22.2年)のフォローアップ期間で、インプラントの失敗は178本(全体の約1.6%)でした。3年、5年、10年、15年でのインプラントの累積生存率はそれぞれ98.9%、98.5%、96.8%、94.0%でした。この研究は、デンタルインプラントが長期間にわたって高い生存率を維持することを示しています。【French, Ofec, & Levin, 2021】
2. デンタルインプラントの置換について
オッセオインテグレーション(骨結合)が達成されたとき、インプラントと直接接触している骨との間に動きがないと考えられるデンタルインプラントは、「失われた歯のための歯科リハビリテーションにおけるゴールドスタンダード」として人気を博しています。このインプラントは機能的で安定しており、その寿命を通じて安定しています。他のタイプの歯科補綴物や矯正治療、まれに歯の移植など、インプラント以外の選択肢も存在しますが、コスト、寿命、提供の実用性を患者と相談する際に考慮すべきです。【Teo Bo Tiong & Loo Sun Din, 2020】
これらの論文から、デンタルインプラントは長期間にわたって高い生存率を示し、適切なケース選択と管理により、多くの患者にとって失われた歯の信頼できる代替手段となる可能性があることがわかります。ただし、患者ごとの特定の状況やリスク要因を考慮することが重要です。