インプラント治療前・治療後の疑問

インプラント治療後数年してから痛みが出ることはありますか?

インプラント治療後数年してから痛みが出ることはありますか?

インプラント治療は、見た目や機能性の面で天然歯に近いため、生活の質を大きく向上させることが出来ます。しかし、インプラント治療を受けた後に、数年経ってから痛みや違和感が現れる場合がありますので、ご説明します。

インプラント治療とは?

インプラント治療は、失われた歯を補うための最先端の歯科治療です。この治療では、チタン製の人工歯根(インプラント体)を顎の骨に埋め込み、その上に上部構造(被せ物)を固定します。インプラントは天然歯の歯根の代わりをするもので、咀嚼機能の回復だけでなく、見た目も天然歯とほぼ変わりません。

インプラントの治療の流れ

インプラント治療の流れは以下の通りです。

  1. 初診と診断・・患者の口腔内の詳細な検査と健康状態の評価
  2. インプラントの埋め込み・・局所麻酔下で顎の骨にインプラントを埋め込む手術を行う
  3. インプラントと骨が結合するまで待つ期間・・インプラントと骨がしっかりと結合するための時間(数ヶ月かかる)
  4. 上部構造の取り付け・・人工歯根(インプラント体)の上に人工の歯を取り付ける

インプラントによって期待される結果

適切な手順で行われたインプラント治療は、多くの場合、非常に成功率が高く、患者さんが期待できる結果は以下のようなものです。

  • 自然な見た目と機能性・・人工の歯は天然歯に非常によく似ており、食事や会話においても違和感が少ないです。
  • 長期的に使用できる・・適切なケアを施せば、インプラントは長期間機能することが多いです。
  • 健康な歯への影響が少ない・・従来のブリッジ治療と違って、インプラントは隣接する健康な歯を削る必要がありません。

インプラント治療は、高い成功率と天然歯に近い状態を再現できるということにより、多くの患者さんに選ばれています。しかし、長期的な成功には適切なケアと定期的なメンテナンスが不可欠です。

インプラント治療から数年経って痛みが出る原因

インプラント治療から数年が経過して、痛みや違和感が出ることがあります。これらの症状の背景には複数の原因が考えられますが、以下に主なものをあげます。

1. インプラント周囲炎

インプラント周囲炎は、インプラントを取り巻く歯周組織に炎症が起こっている状態を指し、インプラントの失敗の主な原因の一つです。この状態は歯周病に似ており、以下のような症状が現れることがあります。

  • 赤み、腫れ、または痛み
  • インプラント周辺の出血や膿
  • インプラントの動揺

2. 適切なケアが行われなかった場合のリスク

毎日のオーラルケアが不足していて適切に行われていない場合、インプラント周囲炎を含む様々な問題が生じるリスクが高まります。定期的なメンテナンスや歯科診療を受けずに放置すると、問題はさらに深刻化する可能性があります。

3. 歯周病の影響

歯周病は、インプラントが埋まっている歯茎や顎骨の健康に悪影響を与え、結果として痛みやインプラントの脱落につながる可能性があります。

インプラントの周囲に生じる問題は、初期段階で適切に対処されることが重要です。定期的な歯科健診により、問題の早期発見と治療が可能になります。

痛みを引き起こすその他の要因

痛み

インプラント治療後数年で痛みが生じる原因は、インプラント周囲炎だけではありません。他にもいくつかの要因が痛みや不快感を引き起こす可能性があります。

1. 不正咬合

不正咬合(上下の歯が正しく噛み合わない状態)は、インプラントに過度の力がかかる原因となります。これはインプラントや周囲の組織に損傷を与え、痛みや不快感を引き起こす可能性があります。

【症状の例】

  • 噛むときの違和感
  • 特定の歯に対する過度の圧力感

2.インプラントの損傷や破損

インプラント自体やその上に取り付けられた上部構造が損傷したり破損したりすることもあります。これは事故や硬い物を噛んだ結果、または歯ぎしりによる場合もあります。

【対処法】

  • 定期的な健診での早期発見
  • 上部構造を必要に応じて修復・交換する

3.その他の歯科疾患

インプラント周辺だけでなく、他の歯や口腔内の異常も痛みの原因になることがあります。例えば、隣接する歯の虫歯などです。

【予防策】

  • 定期的な歯科健診
  • 適切なデンタルケア

インプラントの痛みや不快感には様々な原因があり得るため、専門家による適切な診断が重要です。自己診断や放置は問題を悪化させる可能性があるため、症状が現れたら速やかに歯科医師に相談することをお勧めします。

正しいケアと予防策

インプラント治療後の痛みや問題を防ぐためには、適切なケアと予防策が不可欠です。ここでは、インプラントの長期的な健康と機能を維持するためのポイントをいくつかご紹介します。

定期的な歯科健診の重要性

  • 定期検診・・インプラントの状態を定期的にチェックし、早期に問題を発見・対処することが重要です。
  • プロフェッショナルクリーニング・・歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニングを定期的に受けることで、歯垢や歯石がたまるのを防ぎます。

正しいデンタルケアの習慣

  • ブラッシングとフロッシング・・毎日の歯磨きの際のブラッシングとフロッシングで、インプラント周囲の歯垢を効果的に除去します。
  • 特殊なケア用品の使用・・インプラント専用のブラシやフロスを使用すると、より効果的にケアできます。

ストレス管理と咬合保護

  • ナイトガード・・歯ぎしりや食いしばりはインプラントに過度の力をかけ、インプラントの破損に繋がる可能性があります。歯ぎしりや食いしばりからインプラントを守るには、ナイトガードと呼ばれるマウスピースの夜間の使用が有効です。
  • ストレス管理・・ストレスが原因で歯を食いしばることが多い場合は、リラクゼーション技術やストレス管理の方法を学ぶことが役立ちます。

適切なケアと予防策を実践することで、インプラント治療の成功率を高め、長期的に機能を保つことができます。定期的な歯科健診と毎日のオーラルケアが、インプラントを長持ちさせるための鍵となります。

インプラントに痛みが起こった時の対処法

インプラント治療後に痛みや不快感を感じた場合、適切な対処法をとることが重要です。ここでは、痛みが起こった場合の具体的な対応策をいくつかご紹介します。

1. 専門家による診断と治療

  • 歯科医師への相談・・痛みや不快感が生じたら、速やかに歯科医師に相談しましょう。自己判断せず、専門家の診断を受けることが最善の対応策です。
  • 総合的な評価・・歯科医師は、レントゲンや口腔内検査を通じて、痛みの原因を特定し、適切な治療計画を立てます。

2. 自宅でのケア方法

  • 冷却療法・・腫れや炎症を一時的に抑えるために、痛みのある部位に対して氷や保冷剤をタオルに包んで当てることが有効です。
  • 食事の注意・・痛みがある場合は、柔らかくて刺激の少ない食事を選ぶことが重要です。硬いものや極端に熱い・冷たい食べ物は避けましょう。
  • デンタルケア・・痛みのある部位を避けてやさしくブラッシングし、口腔内を清潔に保つことが重要です。

痛みが発生した場合には、専門家の意見を聞くことをお勧めします。歯科医師は、個々の状況に合わせた最適な治療法を提供します。

まとめ

インプラント治療は、天然歯に近い快適さと機能性を取り戻す素晴らしい治療です。治療から数年後に万が一痛みが発生した場合には、適切な対処が必要になります。定期的に歯科健診を受けると、インプラント周囲炎やインプラントの破損にいち早く気付くことが出来、適切な処置を受けることが出来ます。インプラントの長期的な機能性を維持するために、毎日のデンタルケアとストレス管理にも注意を払いましょう。

インプラント治療後数年してからの痛みに関して、以下の2つの研究が参考になります。

1. 神経障害による疼痛

インプラントの配置後に神経障害性疼痛が発生した患者の症例報告です。この研究では、インプラント配置後に持続する、制御不能な術後痛について、ベルギーのルーベン大学での口腔顎顔面外科で診断された患者を対象に、最低12ヶ月のフォローアップを行った結果が報告されています。疼痛の原因は26人中17人で確立されましたが、9人では原因不明でした。早期の段階でのリスクのあるインプラントの除去が、48時間以内に行われることが推奨されています。神経障害性疼痛の治療には、外科的または薬物的治療が含まれますが、アミトリプチリンが症状の一貫した改善に関連しているようです。【Politis et al., 2017

2. マキシラにおけるインプラント配置後の慢性術後神経障害性疼痛

上顎にインプラントを配置した後に発生した慢性術後神経障害性疼痛の症例報告です。この研究は、オロフェイシャル疼痛クリニックに紹介された、上顎のインプラント配置後に神経障害性疼痛が生じた連続する患者の症例ノートから得られたデータに基づいています。患者の痛みは、インプラントが配置された直後に即座に始まりました。痛みの管理は複雑で、薬物治療(抗てんかん薬や三環系抗うつ薬)、ボトックス注射、認知行動療法を含んでいましたが、9例中痛みは完全には解決しませんでした。【Devine et al., 2016

これらの研究は、インプラント治療後に発生する可能性のある神経障害性疼痛に関する認識を高め、このような疼痛の可能性がある患者を適切に評価し、管理するための洞察を提供します。特に、患者が重篤で持続する術後疼痛を報告した場合には、CPSP(慢性術後疼痛)のリスクが高いと考えられ、オロフェイシャル疼痛の専門家に紹介されるべきです。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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