インプラント

インプラント周囲炎と歯肉炎の類似点は?

インプラント周囲炎について

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラント周囲炎という言葉を聞いたことがおありでしょうか?インプラント自身は人工の歯ですので、虫歯になる心配はないのですが、歯垢や歯石がつき、その中に細菌が棲みつくことで、インプラントをしている部分の歯ぐきに歯周病のように炎症が起こることがあります。

インプラント周囲炎とはどういうものなのか?歯肉炎との類似点は、原因、治療法についてご説明します。

インプラント周囲炎とは?

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎の初期症状は、インプラントの周囲に付着した歯垢や細菌が原因で、インプラントの周囲の歯肉が腫れてきます。そして、もっと悪くなるとインプラントを埋め込んでいる歯槽骨を溶かしてしまいます。

そのまま放置してしまうと、せっかくインプラントを埋め込んだ部分がぐらぐらしてきますので、やがてインプラントが抜け落ちてしまいます。これを防ぐために、定期的に歯科医院で検診を受けるようにしてください。

ここまで読まれて、「インプラント周囲炎は歯周病に似てるな」と思われた方、正解です。インプラントの周囲の組織が歯周病になることを、インプラント周囲炎といいます。

歯ぐきが少しでも腫れている場合は、歯科衛生士がお口の中のクリーニングを行うと共に歯みがき指導を行い、経過を観察します。ご自宅でのデンタルケアの仕方についてご質問がある場合も、歯科衛生士にお聞きください。お一人おひとりに合ったケアの仕方をアドバイスいたします。

虫歯と同じで歯肉炎、歯周炎も放っておくと進行していきますので、ぜひ定期的に歯科医院に通う習慣を身につけてくださいね。

インプラント歯周炎になってしまう原因は?

歯ブラシ

インプラント周囲炎になってしまうのには、下記のような理由が考えられます。

  • 毎日の歯磨きなどのケアが充分に行えていない
  • 歯周病が治っていないのにインプラント手術を行った

インプラントの周囲が歯周病になってしまうのがインプラント周囲炎ですので、歯周病になる原因がそのままあてはまります。歯周病にかかっている人のお口の中には歯周病菌がたくさん棲んでいます。歯周病を治さずにインプラントを行うことがいかに危険か、おわかりになると思います。

手術後の数か月間は、特にていねいに歯みがきやうがいを行って頂く必要があります。 歯茎が歯周病に感染してしまうと、軽度な場合は歯科衛生士によるクリーニングで炎症がおさまりますが、インプラントの周囲の歯周ポケットが深くなってインプラントがグラグラと動くように なってしまうと、完治させることは難しくなりますので、出来る限り感染を起こさないようにしなければなりません。

インプラント周囲炎はどんな風に進行していくの?

歯周病が歯肉炎から歯周病に進行するように、インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎に進行していきます。

インプラント周囲粘膜炎

インプラントの周囲の歯茎に起こる炎症のことで、インプラント周囲の歯垢や歯石をきれいに落としきれていなかったために歯周病の原因菌が増えて、歯周ポケットが形成されます。この段階では歯ぐきが炎症を起こしていても、ご本人は気づかないことが殆どです。

インプラント周囲炎

やがて歯みがきの時に歯茎が出血するようになり、歯周ポケットも深くなってきます。更に進むと、炎症は歯茎だけでなくインプラントを支える骨までひろがり、次第に骨が溶けていきます。

骨がインプラントを支えられなくなった時点で、インプラントは骨から抜けて脱落してしまいます。 歯茎の炎症に気づかなかった場合は、「いきなり抜けてしまった」と思われるかもしれませんが、インプラント周囲炎が進行した結果です。

インプラント周囲炎の予防のためには?

インプラントを長く使っていくためには、毎日の歯みがき等のケアが重要です。歯みがきが面倒くさくて嫌々なさっている方もおられるのではないでしょうか。毎日のブラッシングは本当に大切ですが、きちんと歯のケアをすることで必ず良い結果に導かれますので、歯磨きは特別なことではなく、「毎日する当たり前のこと」という位置づけにしてみてください。

特に毎日のブラッシングがきちんと行えていないことが原因で歯を失ってしまった場合は、インプラントだけでなく他の歯を守るためにも、今後は毎日歯のお手入れをすることを徹底していただきたいです。

インプラントによって歯がないという事態は避けられたものの、他の歯にも同じことが起こらないとも限らないのです。確かにインプラントは自分の歯そのもののような違和感のない噛み心地と見た目ですが、天然の歯に勝るものはありません。歯を失ったという経験を踏まえて、今後はご自身の歯を大切にしてください。

また、インプラントといえども、毎日のお手入れがあまりにも悪い場合はダメになってしまう可能性があります。歯肉が炎症を起こす病気で、インプラント周囲炎と言って、治りにくく最悪の場合はインプラントを撤去することになります。そのような怖い事態にならないために、数か月に一度の定期健診をおすすめしております。

日頃きれいに磨けていない部分がある場合、歯科医師や歯科衛生士が見ればすぐに分かりますので、その部分をどうやったらきれいに磨けるかアドバイスさせていただきます。磨き残しの部分は虫歯や歯周病になりやすいので、必ず攻略してくださいね。そのために歯科衛生士が強い味方になると思います。

インプラント周囲炎と歯肉炎の類似点

インプラント周囲炎

現在では多くの患者さんがインプラント治療を受けておられ、インプラントが可能な歯科医院もどんどん増えています。数年前に手術の危険性についてテレビや雑誌で取り沙汰されましたが、その後、インプラント手術が安全に行われるようになるにつれ、治療後のメンテナンスの重要性が議論されるようになってきました。

一方で、インプラント周囲の骨が細菌感染によって吸収される「インプラント周囲炎」にかかっている患者さんが増えており、どのようにしてそれを予防し、また対処するかが今後の歯科医療の大きな問題となってきています。

インプラント周囲炎にかかってしまうと、歯周病と比べてインプラント周囲の骨は急速に吸収されてなくなっていきます。歯周病がすすむと歯が抜けてしまうように、インプラント周囲炎が悪化するとインプラントが抜けてしまうのです。

そのため、歯科医院では治療後の患者さんに対して定期的にメンテナンスに通うように呼びかけています。インプラント周囲炎は、歯周病よりも更に早めのケアが必要です。

さて、ここでインプラント周囲炎と歯肉炎の類似点等についてみていきましょう。

粘膜炎

動物実験やヒト生検標本から、インプラント周囲粘膜の炎症と歯肉炎が良く似ていることが確認されています。さらに歯肉やインプラント周囲粘膜辺縁部の結合組織が細菌に反応して起こる炎症は、同じパターンをたどり、2つの病変の炎症性細胞の組成も類似しています。

歯肉炎と粘膜炎は治癒して元に戻る状況であり、炎症は適切な手当やメンテナンス等の感染管理手段の対策をとることで完全に消し去ることができます。

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎は粘膜炎とは対照的に、歯周炎とは大きく異なる特徴があります。歯周炎で起こる炎症は、歯肉の上皮化結合組織部位に限定されており、1mm幅の密な結合組織ゾーンによって歯槽骨から分離されています。

さらに、ポケット領域はポケット上皮が最根尖側で歯根面と接触しているため、ポケット内の最近のバイオフィルムを遮断し、直接触れないようになっています。

インプラント周囲炎もまた、細菌が増殖するポケットが存在するという点では、同じです。しかし、歯周炎のポケット上皮とは対照的にインプラント周囲炎の上皮はポケット全体を覆っていません。その結果、ポケット内の根尖側から3分の1の炎症組織は覆われておらず直接バイオフィルムと接触してしまっています。

歯周炎とのもう1つの相違点は、インプラント周囲炎の炎症の広がり方です。歯周炎ではその病変は結合組織ゾーンで歯槽骨から分離されていますが、インプラント周囲炎の病変は、骨表面に近接した位置まで広がります。

疾患の治療のための方針を選択する際、歯周炎とインプラント周囲炎とのこれらの違いを理解することが重要になります。インプラント周囲炎を放っておくことのないように注意しましょう。

インプラントをきっかけに歯周病が良くなったお話

歯は骨で支えられているのですが、この骨が溶けていく病気が歯周病です。歯周病の起こる原因は様々で、患者さんの体質や生活習慣によって発症の年齢や進み具合が違ってきます。

基本的には患者さんの体質を改善することで歯周病は良くなってくるのですが、患者さんの身体の抵抗力が一時的に衰えたり体力が弱まった時に歯周病がひどくなったりもします。また、噛み合わせのバランスが崩れて特定の歯に負担がかかるような状態になった場合も歯周病が進行して骨が溶けやすくなります。

歯周病の患者さんが歯を失った場合、入れ歯で治療するのは危険です。保険適用の入れ歯はバネを引っ掛ける方式ですので、バネをかける歯に負担がかかります。そしてバネをかけても入れ歯はしっかり固定されずに揺れることが多く、その揺れが更に周囲の歯に負担をかけます。

歯が揺れている状態ではしっかり噛めないことは、想像して頂ければおわかりになると思います。

入れ歯ではなく、インプラントで力がかかっても大丈夫なしっかりとした奥歯をつくってやると、歯が揺れて他の歯に負担をかけることも、入れ歯のようにバネで歯に負担がかかることもありません。

インプラントで奥歯の噛み合わせを改善することで、残っている歯の負担は激減します。そしてインプラントを埋入した部分の骨は、吸収されることなく逆に骨が回復していきます。それは周辺の歯にも良い影響を与え、歯周病の改善へと繋がっていきます。

インプラント周囲炎と歯肉炎に関するQ&A

インプラント周囲炎とは何ですか?

インプラント周囲炎とは、インプラントを囲む歯肉や骨が炎症を起こす病状です。原因は、インプラント周囲に付着した歯垢や細菌で、初期症状は歯肉の腫れです。

インプラント周囲炎と歯肉炎の類似点は何ですか?

インプラント周囲炎と歯肉炎の類似点は、主に病因と治療法です。どちらも歯垢や細菌の蓄積が原因で、定期的なクリーニングと正しい口腔ケアが治療に重要です。

インプラント周囲炎はどのように進行していくのですか?

インプラント周囲炎は歯周病が歯肉炎から歯周病に進行するように、インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎に進行します。歯茎から出血し始め、骨が溶けるとインプラントが抜け落ちてしまう可能性があります。

まとめ

インプラント周囲炎は、インプラントの周囲に歯垢や細菌が蓄積することで発生します。歯周病と同じく細菌の出す毒素によって歯周組織が壊されていく病気で、初期段階では歯茎の腫れが起こり、そのまま放置すると次第に歯茎が退縮していきます。

周囲炎が進行すると歯槽骨が溶け始め、最終的にインプラントが抜け落ちる可能性がああります。インプラント周囲炎の予防には日々のブラッシングと定期的な歯科健診が重要です。インプラント周囲炎は歯周病とは治療法や進行の速さが異なるため、専門家による適切なケアが必要です。

インプラント周囲炎と歯肉炎の類似点に関して、以下の研究が参考になります。

1. 臨床的、免疫学的、微生物学的特徴の比較

歯周病およびインプラント周囲病変の周囲組織は、微生物刺激に反応して臨床的な炎症を発達させます。この研究では、自然な炎症と実験的なプラーク蓄積に反応して、歯およびインプラント部位の臨床的パラメーター、選択された炎症マーカー、および微生物叢を包括的に評価しました。結果として、歯とインプラントは経口衛生を欠いた状態で類似の反応を示しましたが、インプラントではプラークが少なく、微生物叢の構造の変化がより異質でした。【Schincaglia et al., 2017

2. インプラント周囲炎および歯肉炎の病理生物学

インプラント周囲炎と歯肉炎は、歯周病と類似した炎症破壊を特徴とします。両病態は、細菌性生物膜の形成に起因するインプラント支持組織の炎症破壊によって特徴づけられます。インプラント周囲炎の微生物叢は、歯周炎と非常に似ていますが、インプラント周囲炎では頻繁に多数のブドウ球菌および腸内細菌が存在することがあります。炎症応答のイベントの進行および免疫細胞の質的構成は、歯周病とインプラント周囲病変で類似していますが、インプラント周囲炎は、より広範な炎症性浸潤、より強い先天性免疫応答、より大きな組織破壊の重症度、およびより速い進行率を示します。【Belibasakis, 2014

これらの研究から、インプラント周囲炎と歯肉炎は、細菌性生物膜によって引き起こされる炎症反応において共通の特徴を持つことがわかります。しかし、インプラント周囲炎はより速い進行とより広範な炎症反応を示す可能性があることも示唆されています。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

▶プロフィールを見る