監修・執筆:大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋



「要介護状態や認知症になったらインプラントはどうなる?」

要介護状態や認知症になっても、インプラントを必ず抜くわけではありません。清掃と歯科管理を続けられ、痛みや炎症などの問題がなければ、使い続けられる場合があります。管理が難しくなったときは、被せ物の形の変更や取り外し、本体の撤去などを個別に検討します。

この記事を読むとわかること

  1. 使い続けられる条件

    → 介護が必要になった後、何を確認して判断するかがわかります。
  2. 家族や介護者ができる対応

    → お手入れや、歯科へ相談したい変化を整理できます。
  3. 将来への備え

    → 通院できなくなった場合の相談先や、残しておきたい情報がわかります。

大切なのは、介護が必要になる前と同じ管理にこだわらず、その方の状態に合わせて方法を見直すことです。

 

要介護状態や認知症になったら、インプラントは抜くのですか?

要介護状態や認知症になったら、インプラントは抜くのですか?の図解

診断名だけで撤去は決まりません。お口の状態、食事での役割、清掃のしやすさ、ご本人の希望や処置の負担を合わせて判断します。

要介護・認知症という理由だけで、すべてのインプラントを撤去するわけではありません。

自分で磨きにくくなっても、介助と歯科の支援で管理できる場合があります。

対応は、次のように状態によって異なります。

状態 検討する対応
問題がなく、清掃できる 介助や定期的な歯科管理を続ける
汚れが残り、炎症がある 清掃方法を見直し、必要な治療を行う
形が複雑で管理しにくい 被せ物の形や構造の変更を検討する
重い炎症や本体のぐらつきがある 撤去の必要性と、処置に耐えられるかを評価する

「残すか抜くか」の二択になるとは限りません。

家族や施設だけで決めず、歯科医師に現在の状態を確認してもらいましょう。

自分で歯磨きができなくなると、何が問題になりますか?

歯磨きが出来なくなったとき問題

歯垢が残ると、インプラント周囲の歯茎に炎症が起こり、進行すると支える骨が減る場合があります。また、ご本人が痛みや部品の緩みを伝えにくくなることにも注意が必要です。

「痛いと言わない」だけで、問題がないとは判断できません。

認知症がある方では、言葉より先に食事や行動の変化が現れることがあります。

普段との違いを、次のような点から確認します。

<td出血や腫れ、膿などの変化については、インプラント周囲炎の症状と初期サインもご覧ください。ご本人から痛みの訴えがなくても、普段と違う様子があれば歯科へ相談しましょう。が動く・部品が欠けた

気づいた変化 相談したい内容
歯茎の腫れ・出血・膿 周囲の炎症や清掃状態
口臭が強くなった 汚れ、炎症、乾燥などの原因
食べる量が減った・片側で噛む 痛み、噛み合わせ、飲み込みの状態
破損や脱落、誤飲・誤嚥のおそれ

食事の変化には、お口以外の原因もあります。

介護記録などで変化を共有し、必要に応じて歯科と医科の両方へ相談してください。

出血や腫れ、膿などの変化については、インプラント周囲炎の症状と初期サインもご覧ください。ご本人から痛みの訴えがなくても、普段と違う様子があれば歯科へ相談しましょう。

家族や介護スタッフは、どうお手入れすればいいですか?

家族や介護スタッフによるインプラントのお手入れ

歯ブラシを基本に、被せ物と歯茎の境目や歯間を清掃します。用具や姿勢、水分の使い方は、飲み込む機能や被せ物の形に合わせて教わることが大切です。

実際に介助する方が、お口に合う清掃方法を確認しましょう。

介助では、次の点を意識してください。

  1. 固定式か取り外し式かを確認します。

    → 固定式の歯を、入れ歯のように引っ張って外そうとしないでください。
  2. 歯間ブラシは、合うサイズを使います。

    → 大きすぎる用具を押し込まず、磨く場所と通す方向を教わります。
  3. 嫌がるときは、痛みや不安も考えます。

    → 無理に口を開け続けず、時間帯や声かけを変え、歯科へ相談します。

清掃を嫌がることを、認知症のためと決めつけないことも大切です。口内炎や部品の接触など、痛みの原因が隠れている場合があります。

むせやすい方や、うがいが難しい方では、水分を多く使わない方法などを個別に確認してください。

清掃の基本については、インプラントを長持ちさせるためのケア方法も参考にしてください。介助する際の姿勢や用具、水分の使い方は、ご本人の状態に合わせて歯科医師・歯科衛生士に確認しましょう。

歯科医院へ通えなくなったら、どうすればよいですか?

高齢者で通院が難しくなったら

まず治療した歯科医院に連絡し、訪問歯科への紹介や情報提供を相談します。担当のケアマネジャーや施設の相談員を通じて、訪問診療に対応する医院を探す方法もあります。

通院が難しくなった段階で、管理を引き継ぐ相談を始めましょう。

訪問歯科では、診察や清掃、介助方法の指導などを受けられます。ただし、インプラントの修理には専用器具が必要なことがあり、すべての処置を自宅や施設で行えるとは限りません。

被せ物の取り外しや本体の撤去などは、設備のある医院・病院での対応が必要になる場合もあります。日本口腔インプラント学会の実態調査でも、訪問診療での処置や情報不足による難しさが報告されています。

連絡時には「インプラントが入っている」「どの部位か」「痛みやぐらつきがあるか」を伝えると、対応を相談しやすくなります。

管理が難しい場合、被せ物の変更や撤去はできますか?

インプラントの管理が難しい場合

状態によっては、清掃しやすい形に変えたり、被せ物を外して本体を残したりする方法を検討できます。本体の撤去とは処置も負担も異なり、構造によって選べる方法が変わります。

「上の歯を外すこと」と「骨の中の本体を抜くこと」は異なります。

どの方法が可能かは、製品や固定方法、骨・歯茎の状態によって変わります。

相談では、処置の範囲を具体的に確認してください。

方法 目的・注意点
被せ物の形を変更する 清掃しやすさや、粘膜への当たりを改善する
被せ物を外し、本体を残す 構造に応じて、本体上部を保護する方法などを検討する
本体を撤去する 重い炎症や本体の動揺などを踏まえて判断する

被せ物を外した場合も、露出した部分による傷や、残した本体の管理が課題になります。

処置後の食事や清掃まで含めて計画する必要があります。

撤去には手術の負担が伴います。ご本人の意思をできる限り確かめ、家族・介護者・医療者で、苦痛と利益のバランスを検討します。

元気なうちに、何を準備しておけばいいですか?

高齢者のインプラントで準備しておくもの

治療情報と相談先をまとめ、ご家族にも保管場所を伝えておきましょう。将来、自分で説明できなくなっても、歯科医療者が構造や使う器具を調べる手がかりになります。

保証書に加え、「何が、どこに入っているか」の記録を残しましょう。

日本口腔インプラント学会は、治療情報の共有に使う「口腔インプラントカード」を公開しています。

かかりつけの医院で、記載や情報提供について相談できます。

残しておく情報 引き継ぎで役立つこと
治療した医院・連絡先 詳しい記録の問い合わせ先がわかる
メーカー・製品・治療部位 部品や専用器具を確認しやすい
被せ物の固定方法 取り外しや修理の方法を検討できる
清掃方法・最近の受診記録 日々のケアと経過を共有できる

資料が見つからなくても、受診を諦める必要はありません。

まず診察を受け、必要な情報を元の医院へ問い合わせてもらいましょう。

「磨きにくくなった」「受診の付き添いが必要になった」という変化は、引き継ぎを始める合図です。困ってから一から調べる負担を減らせます。

まとめ|介護が必要になっても使い続けるには?

要介護状態や認知症になっても、インプラントを一律に撤去する必要はありません。清掃と診察を続け、難しくなった部分を状態に合わせて見直します。

使い続ける備えは、清掃の支援と治療情報の共有から始まります。

通院や歯磨きが難しくなったら、早めにかかりつけ歯科へ相談してください。ご本人の食事や苦痛、介護する方の負担も踏まえ、無理なく管理できる方法を一緒に考えましょう。

参考文献・情報源

※本記事は上記の情報源などを参考に、一般の方にわかりやすい内容となるよう編集・構成しています。