インプラントの基礎知識

インプラントと天然歯の違いとは?

インプラントが天然歯と異なる点はどんなところ?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラントは失った歯の代わりになる治療ですが、天然の歯とどのような違いがあるのか比較してご説明します。

インプラントと天然歯の大きな違いは歯根膜のあるなし

インプラントと天然歯の違い

インプラント治療をするとご自分の本当の歯のように噛めるようになれますが、それでも天然の歯との間には違いがあります。

歯を失うということは、あごの骨から歯を全て取り去るということで、同時に歯根膜という歯と骨の間のクッションの役割をしていた線維性の組織をも失ってしまいます。

天然の歯には、骨と歯の根の間に厚さ0.2ミリほどの歯根膜という組織があって、歯と骨がじん帯でつながっており、食べ物を噛むときの衝撃を吸収してくれます。噛み応えとか噛み心地といわれる、食べる時のほんの僅かな感覚も、歯根膜の働きによって感じることが出来ます。硬い食べ物は力を入れて、やわらかい食べ物は軽い力でという風に、食べ物によって噛む力が無意識のうちに適切にコントロールされて食べ物に加わって咀嚼することが出来ます。

一方インプラントは、インプラント体を骨に埋め込むという形でインプラント体と骨が直接くっついているため、歯根膜がありません。歯根膜というクッションがないせいで、インプラントでは噛む力が骨にダイレクトに伝わります。

インプラントに歯根膜がないことでどんなことが起こる?

歯根膜の役割は、クッション性による噛む力のコントロールだけではありません。

血液供給が少なくなる→感染に弱くなる→インプラント周囲炎を起こしやすくなる

天然歯は骨や歯ぐき、歯根膜という3つの方向から血液の供給を受けていますが、インプラントは歯根膜がないので血液供給をあまり受けることが出来ません。

天然歯の中心部には歯髄と呼ばれる部分があり、歯の神経と血管が通っています。この血管内を血液が循環していて、歯に栄養を運んでいます。血液の中の赤血球は酸素や栄養を運び、血小板は出血を止める働きをします。そして白血球は体内に侵入してきた細菌やウイルスなどを取り込んで食べてしまい、私たちの身体を細菌から防御してくれます。

血液の供給が少ないためにインプラントは感染に弱い状態になっており、天然歯と比べると抵抗力が低くなって歯周病菌によるインプラント周囲炎を起こしやすいのです。その上、インプラントの周囲の歯肉に一度炎症が起こると、進行しやすいというリスクもあります。

そのため、インプラント治療を行った方は、周囲の歯周組織が感染を起こさないように、インプラントも天然歯と同様のていねいなケアが必要になります。

インプラント周囲炎とは

インプラント周囲炎とは、インプラントの周囲の組織が歯周病に感染した状態のことです。天然歯と比較してインプラントは炎症への抵抗力が弱いため、感染後の進行が早く、歯槽骨の骨吸収も急速に進行します。

インプラント周囲炎は歯周病と同じく初期の段階では自覚症状が出にくく、ある程度進行するまではご自身では気づくことが出来ません。そのため定期的に歯科医院でのメンテナンスを受け、インプラントや周囲の歯茎、顎骨の状態をチェックしましょう。

また、歯周病にならないためには日常的な歯みがきなどのセルフケアも大切ですので、ていねいに行いましょう。

強く噛みすぎてしまう

歯根膜がないと微妙なコントロールがきかないため、食べ物の硬さややわらかさに関わらず、常に強く噛んでしまうという傾向があります。そのため、噛み合う相手の歯がすり減りやすくなったり、お口全体の噛み合わせのバランスが徐々に狂ってくる場合がありますので、数か月に一度のメンテナンスを必ず受けていただく必要があります。

メンテナンス時にはお口全体のクリーニングも行いますので、インプラント周囲炎の予防のためにも必ずお受け下さい。

上部構造が欠けてしまうことがある

上部構造はセラミックなどで作製されており、虫歯になったり質がもろくなったりする心配はありません。しかし歯ぎしりや食いしばりなどの癖をお持ちの方は、インプラントの歯にも大きな力をかけてしまいます。

その結果、上部構造(被せ物)が欠けてしまう場合がありますので、インプラントを守るためには、なるべく歯ぎしりや噛みしめや食いしばりを行うことのないように気をつける、夜間はマウスガードを使って歯を保護するなどの対策をとることが重要です。

インプラントとはどんな治療?

インプラントの構造

インプラントは歯を失った時の治療で、顎の骨にチタン製の人工歯根(インプラント体)を埋め込む外科手術を行い、人工歯根の上にアバットメントと呼ばれるパーツを取り付け、更に上部構造(被せ物)を装着して、失った歯の機能を回復させる治療法です。

インプラント体は歯槽骨に埋入され、歯ぐきの上に見えるのは被せ物の部分だけなので、セラミックやジルコニアで上部構造を作製すれば、天然の歯と比べても見た目は全く変わらない人工歯を作ることができます。

チタンという金属は骨と結合する性質をもっているため、インプラント体が骨に固定されて、人工的な歯根の役割をします。インプラントは硬いものでもしっかり噛めるのが特徴ですが、それはインプラントが人工歯根をもっているからです。それが入れ歯やブリッジにはないインプラントの優れた特徴で、インプラントが「第二の永久歯」と呼ばれる所以でもあります。

インプラントと天然歯の違いに関するQ&A

インプラントと天然歯の大きな違いは何ですか?

インプラントと天然歯の大きな違いは歯根膜の有無です。インプラントは人工歯根を持っているため、しっかりと噛むことができますが、歯根膜がないためインプラントでは天然歯のように噛む力の微妙なコントロールができないという点が異なります。

インプラントに歯根膜がないことで、どんな問題が起こる可能性がありますか?

インプラントには歯根膜がないため、周囲の歯茎が感染に弱くなる可能性があります。これにより、インプラント周囲炎と呼ばれる感染症が起こりやすくなります。

まとめ

インプラントは「第二の永久歯」とも呼ばれ、見た目が美しく良く噛めることから天然の歯に近いものではありますが、構造上の違いから、天然歯と全く同じようには噛めず、細菌の感染に弱いという特徴があります。インプラントを長持ちさせるために、定期健診を必ず受けていただくことをおすすめします。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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