インプラント治療に使われているチタン製のインプラント体は、1965年頃から使われ始めました。最初に治療をした患者さんは、亡くなられるまでの50年間、良好な状態でインプラントの歯を使い続けることが出来ました。今日はインプラントの歴史についてご紹介していきます。
目次
歯科インプラントの歴史の概要
歯科インプラントの歴史は、数千年前に遡ります。古代エジプトや南米の文明では、貝殻や金属などの異物を歯の代わりに埋め込む試みが行われていました。しかし、現代のインプラント治療の基礎を築いたのは、1952年にスウェーデンの整形外科医ペル・イングヴァール・ブローネマルク博士による発見です。彼は、チタンが骨と生物学的に結合する「オッセオインテグレーション」を発見し、この技術が歯科分野に応用されました。
1965年には、ブローネマルク博士が初めて臨床でチタン製のインプラントを成功させました。この成功により、インプラント治療は世界中に広まり、歯科医療の分野で革命的な治療法となりました。その後、技術の進歩とともに、インプラントのデザインや材料、手術方法が進化し、今日では、数百万人がインプラントによる恩恵を受けています。現在のインプラント治療は、高度な診断技術と精密な手術技術により、より安全で成功率の高い治療として確立されています。
太古の時代のインプラント
紀元前の昔から、人類は歯の代用として石や貝殻、動物の骨等をインプラントとして用い、歯の代用としてきました。
古代インカ帝国では2本の緑色の石のインプラントを施したミイラが出土されており、失った歯の代わりになるような硬いものを歯ぐきに埋め込むという試みがされていたことがわかっています。
ユダヤ法典にも人工の歯の記載があり、歯を失った女性がフィアンセから人工の歯をプレゼントされるということが書かれています。人工の歯としては、人間の歯や象牙、動物の骨などが使われ、金や銀の貴金属も使われていたようです。
紀元2世紀から3世紀頃になると、インプラントに鉄が使われるようになり、文献によると古代ローマ時代では顎骨に鉄製のインプラントが盛んに使われいたとのことです。
19世紀以降のインプラントの発展
インプラントという名称はアメリカのヤンガーによって初めて使われました。ヤンガーは人工的に作った歯を歯槽骨に移植する手術を1885年に行っています。
20世紀にはいると世界各地で戦争が行われ、負傷して歯を失った兵士の治療のために補綴治療が発展していきました。それ以降もコバルトやクロム、金やプラチナなどの様々な金属や宝石がインプラントとして使われましたが、チタンがインプラントに適していることが発見されるまでは、どの素材も一長一短で、インプラントの素材として確立されることはありませんでした。
それは、人体には外部から異物が入った場合に、体内に吸収するかまたは排出するという作用が備わっていたからです。物質によっては身体が拒否反応を起こして異常をきたすため、インプラントの素材は何でも良いというわけにはいかなかったのです。
ブローネマルク博士の発見
インプラントには様々なシステムのものがあり、それぞれ技術改良を進めています。その中でも世界中でもっとも信頼されており日本でも主流になっているのがオッセオ・インテグレーテッド・インプラントです。
インプラント治療そのものはかなり昔から行われてきたのですが、近代の歯科インプラントの主流となったオッセオ・インテグレーテッド・インプラントは1952年にスウェーデンの医師、ペル・イングヴァール・ブローネマルク教授がチタンと骨が結合することを偶然発見したことから、開発が始まりました。
ブローネマルク博士がインプラントにチタンを使うことを発見するまでは、インプラントに使用されていた材質が身体にしっかりとなじみにくかったり、骨と結合しにくかったりと、様々な問題がありました。
そのため、インプラント治療そのものは行われていましたが歯科医療での優れた治療法として広く普及するということはなかったのです。
そのような状況を打破したのが、ブローネマルク博士による発見です。当時、博士はルンド大学で骨が治癒する過程での骨髄の働きを研究していました。
博士がウサギのすねの骨にチタン製の器具を埋め込んで内部を観察していたところ、実験後に器具を取り外そうとしてもなかなか外れません。なんとチタン製の実験器具のネジとウサギの骨が結合してしっかりとくっついていたのです。
これが、ブローネマルク博士がチタンと骨が結合すること(オッセオインテグレーション)を発見した瞬間でした。その後様々な実験が行われ、チタン製インプラントは生体に大変なじみやすく、骨としっかりと結合することが数々の実験結果によって証明されました。
チタン製インプラントについて
歯医者さんにインプラントをすすめられているけれど、インプラントについて良くわからない。そんな方が大勢おられると思います。
インプラントはチタンで出来ており、サイズは直径4ミリ、長さは1センチ程です。手足を骨折した際に身体に入れるプレートやボルトは、殆どがチタン製です。というのは、チタンはアレルギーを起こしにくく、骨とがっちりくっつきやすいという特性があるからです。身体の中にチタンを入れるというのは、インプラントに限ったことではなく、医療の分野では一般的な治療法なのです。
チタンが骨にがっちり結合することを1952年に世界で最初に発見したのが、スウェーデン、イエテボリ大学のブローネマルク教授です。ブローネマルク教授はインプラントの素材や形、人体における反応などに関する実験を重ね、世界に先駆けて1965年に初めてチタン製インプラントを歯科の臨床に取り入れました。
このように、インプラントは40年以上の歴史があり、欧米先進国で50~60万人で実証されてきている信頼の歯科治療といえます。そして、日本でのインプラントの成功率は、平均して97%程度といわれています。
顎の骨が比較的軟らかく、骨がやせやすい上顎へのインプラントで96.2%、下顎では98.3%の成功率となっています。この成功率は極めて高い数字です、それだけインプラント治療が確立された、完成度の高い治療ということですので、まずはご安心ください。
インプラントは歯列矯正の分野でも使われています
歯列矯正の分野で使用されているインプラントは、ミニインプラント、ミニスクリュー等と呼ばれており、とても細く小さいネジのような形をしています。 通常のインプラントが失った歯を補うために使用されるのに対して、ミニインプラントは前歯を大きく引っ込めたいとき等に固定源として使用されます。
通常のインプラントと同じように顎の骨に埋入するのですが、ミニインプラントはとても細く小さいために埋入にはほんの数分しかかからず、歯列矯正の治療後に撤去するのもとても簡単です。もちろん痛みも少ないので患者さんの身体への負担はごく小さなものです。
歯列矯正でミニインプラントが威力を発揮するのは、小臼歯の抜歯を伴うワイヤー矯正の場合です。小臼歯を抜歯して、そのスペースを利用して前歯を後ろに下げることで、出っ歯をかなり引っ込めることが可能になります。その際に、ミニインプラントを固定源として、ワイヤーで前歯を後ろへと引っ張るのです。
細くて小さなミニインプラント(ミニスクリュー)ですが、固定源としてしっかりと安定しますので強い力をかけてもびくともしません。そのため、歯列矯正で抜歯を伴う方の治療には、ミニインプラントは度々登場しますし、もちろんとても安全なものとして使用されています。
インプラントの歴史に関するQ&A
1965年頃からチタン製のインプラント体が使われ始めました。
それまではコバルト、クロム、金、プラチナなどの様々な金属や宝石がインプラントとして使われていました。
オッセオ・インテグレーテッド・インプラントの開発は1952年に始まりました。
まとめ
デンタルインプラントは現在では多くのメーカーで製造開発されており、世界中に100種類以上存在していて、そのうちの30種類程度が日本で使われています。インプラント体の形状は形状はスクリュータイプが主流で、埋入する部位や埋入する位置の骨の幅や高さによって太さや長さが違い、今日なお研究開発が続けられています。