インプラント治療前・治療後の疑問

インプラントが動くトラブルの理由は?

インプラントが動くのはなぜ?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

せっかく治療したインプラントが動いてしまうというトラブルについて、インプラントが動くのはなぜなのか、原因や対処法についてご説明します。

インプラントが動く原因とは

インプラント

インプラントは通常は顎の骨にしっかりと人工歯根が固定されているため、動いたりグラつくことはありません。

インプラントが動くのは、インプラントに何らかのトラブルが起こっているサインです。インプラントが動く場合は、以下のような原因が考えられます。

人工歯根と被せ物を接合した部分が緩んでしまった

インプラントはインプラント体(人工歯根)にアバットメント(土台)を連結させ、上部構造(被せ物)を被せます。スクリュー型やセメント型などメーカーにより固定の方法は異なりますが、スクリュー型の場合に、何らかの理由によりスクリューに緩みが生じてしまうと、上にかぶせている人工歯もガタガタと動いてしまいます。

インプラント周囲炎にかかってしまった

インプラントの周囲の清掃が上手くできなければ、歯垢(プラーク)や食べかすが溜まり、細菌感染を歯肉が起こしてしまいます。インプラントの周囲で起こる歯周病のような状態をインプラント周囲炎と呼びます。歯周組織の細菌感染が進行してしまうと、あごの骨にも影響を及ぼし、グラグラとインプラントが動く状態になります。ただし、周囲炎によってインプラントが動く状態は、かなり重篤な状態ですので、すぐに歯科医院に相談しましょう。

噛み合わせが悪くなってしまった

インプラントを埋入すると、その後インプラントの位置がずれることはありません。しかし、天然歯は外部からの衝撃や、食べ物を噛む時の癖により、位置が動いたり擦り減ったりすることがあります。その場合、インプラントとの上下の歯の噛み合わせが悪くなるという可能性があります。

歯ぎしりや食いしばりをしてしまった

歯ぎしりや食いしばりを行うと、天然歯は歯根膜が衝撃を吸収する機能があります。しかし、インプラントには歯根膜はないため、上下の歯の衝撃が直接インプラントの被せものに負荷として返ってきます。無意識下や就寝時に強く歯ぎしりや食いしばりを行うと、インプラントが動く原因になります。

インプラントとあごの骨の定着がきちんとできていなかった

骨の厚みや質、高さを検査で確認する歯科医師は問題ありませんが、インプラントの経験が少ない医院はこのようにきちんと定着できないということが考えられます。また、手術の際には注水を行いながら人工歯根を埋めるための穴をドリルで開けますが、注水が不十分の場合、あごの骨がダメージを受け、人工歯根とあごの骨のオッセオインテグレーションが起きないということもあります。

口腔外科やインプラントについて、多くの実績があり、経験豊富な歯科を選択しましょう。それにより、安全なインプラント治療ができるため、不安を減らせます。インプラントの診療を行っている医院ではカウンセリング(当院は予約制で無料)を行っていますのでそれを利用し、お気軽に相談しましょう。

動くインプラントへの対処の方法とは

インプラントが動く・ぐらつく場合は、脱落のリスクがあります。インプラントが脱落してしまうとインプラントの再建のために更に治療費や治療期間がかかることになります。

少しでもインプラントが動くように感じる場合は、インプラントの治療を行った医院へ電話やライン、メール等で予めご相談し、なるべく早く受診しましょう。

歯科医院を受診する際に押さえるポイント

歯科医院をすぐに受診できる場合は、以下のことについてメモをしておくと安心です。

  • 時期(いつごろ)から揺れているのか
  • 外傷があったのか
  • 噛む時に痛みがあるのか

このような患者さんの情報がドクターの診断を正しくし、早期の対処につながります。

歯科医院をすぐに受診できない場合

歯科医院をすぐに受診できない方は、以下のことに注意しましょう。

インプラントの歯を触らないようにする

舌先や手でつい動揺してしまったインプラントの歯を触る患者さんがおられますが、力がかかるとより状態や炎症が悪化する可能性があります。なるべくそっとしておきましょう。

硬い食べ物を避けるようにする

するめやおせんべい、フランスパンなど細かく咀嚼が必要なものは受診までの期間は避けておく方が良いです。うどんや、白米など柔らかい食べ物を中心にお食事を行うことをおすすめします。

インプラントとは

インプラントとは、歯を失った方への治療のひとつです。インプラントの特徴として、他の残存歯の寿命を損なわないという特徴があります。

インプラント治療には外科手術が必要で、まずインプラント体(人工歯根)を顎骨に埋め込む手術を行い、インプラント体と骨が結合したら、その上にアバットメントと上部構造を取り付けて、しっかりと噛めるようにします。インプラントはおおよそ3つの部品から成り立ちます。

インプラント治療の3つのパーツ

前歯のインプラントと奥歯のインプラント

インプラント体(フィクスチャー・人工歯根)

インプラント体はチタン・チタン合金などで作られます。チタンは生体親和性が高い金属で、アレルギー反応が起こりにくいといわれています。通常人体に異物を入れると拒絶反応を起こし排除しようとしますが、チタンやチタン合金は人体に異物と判断されません。そのため、骨とチタンで作製された人工歯根は数ヶ月の期間を置くと直接結合します。

チタンが骨と結合する性質をオッセオインテグレーションと呼びます。ラテン語で骨をos、英語で結合や統合をintegrationと呼び、それらが組み合わされた言葉です。

アバットメント(連結部分)

アバットメントは、インプラント体(人工歯根)と上部構造(人工歯の被せもの)を繋ぐ土台の役割をします。インプラント体とあごの骨が結合した後に、インプラント体にアバットメントを取り付けます。

上部構造(被せ物)

上部構造にオールセラミック・ジルコニアセラミックなどセラミックの被せ物を選択すると、天然歯と比べても違いが分かりづらいため、前歯のインプラントの場合にはセラミックの上部構造が使用されます。

これらのセラミックは歯科技工士が患者さんの歯の色に合わせて作製します。オールセラミックは前歯、ジルコニアセラミックは奥歯に適しており、ジルコニアは強度があるため、固い食べ物でもしっかりと噛むことができます。

歯科用プラスチック(樹脂)の混じったセラミックを素材としたハイブリッドセラミックの人工歯もあり、そちらはオールセラミックと比較すると料金が安いというのがメリットです。

ただ、インプラント治療には、保険適用内の入れ歯やブリッジと異なり、費用が高いというデメリットがあります。

インプラントが動く場合の原因に関するQ&A

インプラントが動く場合は、どのような原因が考えられますか?

インプラントが動く原因として、人工歯根と被せ物を接合した部分の緩みやインプラント周囲炎などが考えられます。

インプラントが動くと何が起こる可能性がありますか?

インプラントが動くと、脱落のリスクがあります。再建や追加の治療が必要になり、治療費や治療期間が増加する可能性があります。

インプラントが動いてしまった場合、すぐに受診するべきですか?

インプラントが動いたと感じる場合は、できるだけ早くインプラント治療を行った医院に相談し、適切な対処を受けるべきです。

まとめ

上部構造や、アバットメント、人工歯根は、耐久年数が異なります。ただ、きちんとメンテナンスを行っていれば、平均よりも長く自分の歯として保てているという方もおられます。インプラント治療を行った医院で、定期的にメインテナンスやクリーニングを受け、インプラント以外の歯や歯茎に異常はないか診断してもらうのはとても大切なことです。

インプラントの動き(不安定性)に関する原因を調べた結果、以下の二つの論文が見つかりました。

1. インプラントの長期的な成功率に関する批判的レビュー – インプラント治療は、ほとんどの臨床シナリオにおいて、無歯顎の患者のリハビリテーションにおいて予測可能で安全かつ信頼性のある方法と考えられています。しかし、インプラントの失敗や合併症は一般的であり、インプラントの不安定性(動き)もその中に含まれます。このレビューは、歯を保存するかインプラントで置き換えるかの決定は、歯の状態(残存歯の量や付着損失の程度、動きなど)、全身的な疾患、患者の好みを慎重に考慮する必要があることを示唆しています。【Sartoretto et al., 2023

2. インプラント安定性の測定に関する研究 インプラントの安定性は、インプラントと周囲の骨の間の骨統合の質を反映します。インプラントの首の部分での角剛性を測定することは、臨床環境での正確かつ迅速な測定がまだ利用可能ではないにもかかわらず、厳格で正確な測定法であることが証明されています。この研究は、新しい安定性診断装置を用いて臨床環境で正確に角剛性を測定する方法を示しています。この装置は、インプラントの動きを測定する際の有用性を示しており、インプラントの不安定性の原因を評価するために役立ちます。【Xu et al., 2021

これらの論文から、インプラントの動きの原因は、骨とインプラントの間の骨統合の質や、インプラント周辺の状態などに関連していることが示唆されます。また、インプラントの安定性を正確に評価する方法の開発も重要であることがわかります。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

▶プロフィールを見る