上部構造をアバットメントに取り付ける際に、セメントで接着する方法とネジで止める方法があります。アバットメントと被せ物の固定方法についてご説明します。
目次
上部構造とは?
インプラントは非常にシンプルな構造をしています。
- インプラント体(人工歯根)
- アバットメント
- 上部構造(被せ物)
の3つで構成されています。
今回ご説明するのは、上部構造を固定する方法についてです。
セメントリテイン(セメントで仮着)
上部構造(被せ物)と、土台(アバットメント)をセメントで固定する方法です。
セメントリテインの手順
- インプラント体とアバットメントをネジでしっかりと止めます。
- アバットメントのネジが緩んだ場合は締め直す必要があるため、上部構造後で外せるように仮付けのセメントを使用します。
※セメントの劣化により被せ物がはずれる可能性があります。
セメントリテインの場合の注意
- インプラント治療後は必ず定期健診を受けましょう。
- 最初は違和感があるかも知れませんが少しずつ慣れてきます。
- 咬みはじめは対合する歯に痛みがでる事があります。
- 被せ物がはずれたり、異常を感じたら早めに受診しましょう。
スクリューリテイン(ネジで固定)
上部構造(被せ物)をアバットメントスクリューと呼ばれるネジでアバットメントに固定する方法です。上部構造にはアクセスホールと呼ばれる穴があいており、アバットメントスクリューをインプラント用のドライバーで回して上部構造の着脱を行います。
これは上部構造やインプラントに何らかのトラブルが併発した場合に、ネジを緩めて上部構造取りはずせることで、定期的に歯茎の下の清掃と精査が行いやすい構造となっています。
ネジがゆるんだ時に、締め直すために上部(被せ物)の部分に小さな穴がありますが、そのネジ穴はレジン(歯科用プラスチック)で埋めて目立たなくします。
被せ物とネジ穴の色(白さ)が少し異なる場合があります。
スクリューリテインの場合の注意
- インプラント治療後は必ず定期健診を受けましょう。
- 最初は違和感があるかも知れませんが少しずつ慣れてきます。
- 咬みはじめは対合する歯に痛みがでる事があります。
- 被せ物がはずれたり、異常を感じたら早めに受診しましょう。
セメントリテインのメリット・デメリット
セメントリテインのメリット
アバットメントと上部構造をセメントで接着するため、上部構造のゆるみが起こりづらいといわれます。
スクリューで上部構造を固定するタイプとは違い、アクセスホールはありませんので、アクセスホールのあるタイプのデメリットである審美的な障害や細菌の侵入が起こりません。
また、強すぎる咬合力がかかった時には上部構造が外れますので、噛む力で上部構造を壊してしまうことがありません。
セメントリテインのデメリット
デメリットは、上部構造を外したい時に簡単に取れず、場合によっては上部構造を壊して外す必要がある事です。
スクリューリテインのメリット・デメリット
スクリューリテインのメリット
インプラントに何か問題が起こって上部構造を外したい時に、レジンの部分を削ってスクリューを緩めると簡単に歯冠が外せます。
上部構造をを清掃したい時や、外して修理や研磨をしたい時に外しやすく便利です。
スクリューリテインのデメリット
スクリューで上部構造を固定しているために、ネジが緩むと上部構造にがたつきが起こります。
また、スクリューで上部構造を固定するために上部構造にアクセスホールと呼ばれる穴があいており、アクセスホールの位置によっては口を開けたときに見えてしまって審美的に好ましくないということになります。
アクセスホールはレジンで塞ぎますが、隙間があるとアバットメント内に細菌や汚れが入ってしまいます。そのためメンテナンスを必ず受けるようにしましょう。
セメントリテインとスクリューリテインのどちらが良いの?
上部構造の固定方法にはどちらにもメリットとデメリットが存在します。インプラントに何か問題が起こった時に、簡単に上部構造を外してメンテナンスを行えるのが大きなメリットとなり、現在ではスクリュー固定が増えてきています。
しかしどちらの固定方法であっても、インプラント周囲炎の起こりやすさに違いはみられず、インプラントの生存率にも違いはありません。
セメントリテインとスクリューリテインのどちらが良いかという点については、医学的に統一された見解がないため、担当医が患者さんの症例に最適な方法を選択することになります。
上部構造の固定方法に関するQ&A
上部構造は、インプラント(人工歯根)に取り付けられる被せ物のことを指します。インプラントは、失われた天然歯を代替するために用いられる人工歯根(インプラント体)、その上に取り付ける接続部品(アバットメント)、そして最終的な見た目と機能を提供する上部構造で構成されています。上部構造の主な機能は、咬合力(噛む力)を適切に分散させることと、審美的な側面を向上させることです。インプラント治療において、上部構造は患者の咬合状況や審美要求に合わせてカスタマイズされ、天然の歯とほぼ同じ機能と外観を提供します。
セメントリテインとスクリューリテインは、インプラントの上部構造をアバットメントに固定する二つの異なる方法です。セメントリテインは、セメントを使用して上部構造をアバットメントに接着する方法であり、この方法の利点は、上部構造のゆるみが少なく、審美的な障害や細菌の侵入のリスクが低いことです。しかし、上部構造を外す必要がある場合、これを行うのが困難になることがあります。一方でスクリューリテインは、アバットメントスクリューを使用して上部構造を固定する方法で、上部構造の着脱が容易で、メンテナンスや修理がしやすいというメリットがあります。しかし、ネジの緩みやアクセスホールによる審美的な問題が生じる可能性があります。
セメントリテインの手順には、まずインプラント体とアバットメントをネジで固定することが含まれます。その後、アバットメントと上部構造をセメントで接着します。重要な点は、アバットメントのネジが緩んだ場合に締め直す必要があるため、上部構造を後で外せるように仮付けのセメントを使用します。また、セメントの劣化により上部構造が外れる可能性があるため、定期的なメンテナンスが必要です。インプラント治療後は、違和感や咬合時の痛みに注意し、異常を感じたら早めに受診することが推奨されます。
まとめ
インプラントの上部構造を固定する2つの方法、セメントリテインとスクリューリテインについてご説明しました。
セメントリテインはアバットメントと上部構造をセメントで接着し、スクリューリテインはアバットメントスクリューと呼ばれるネジを用いて固定します。
それぞれにはメリットとデメリットがあり、どちらが優れているか一概には言えません。重要なのは、担当医が患者の状態に応じて最適な方法を選ぶことです。どちらの方法も、治療後の状態を保つためには適切なケアと定期的なメンテナンスが必要です。
上部構造の固定方法に関するセメントリテインとスクリューリテインの違いについて、以下の2つの研究を引用します。
1. Karl, M., & Taylor, T. (2011) の研究では、CAD/CAMを使用したセメントリテインの固定歯科義歯(FDP)と従来の鋳造によるスクリューリテインの固定歯科義歯(FDP)の歪みの発達を比較しました。結果として、スクリューリテインのFDPは、他のすべての修復と比べて有意に高い歪み値を示しました。これは、スクリューリテインの方がセメントリテインよりも歪みが大きいことを示唆しています。【Karl & Taylor, 2011】
2. Ueda, K., & Watanabe, F. (2019) の研究では、前歯領域のインプラント固定歯科義歯において、セメントリテインとスクリューリテインの固定方法が審美的結果に影響を与えることが示されました。セメントリテインでは金属製アバットメントとジルコニア製アバットメントの2種類が使用され、いずれも金属製アバットメントとジルコニア製アバットメント間で統計的な差はなかったものの、固定方法の違いが審美的結果に影響を与える可能性があります。【Ueda & Watanabe, 2019】
結論として、セメントリテインとスクリューリテインの固定方法はそれぞれ異なる特性を持ち、選択は患者の需要や臨床状況に応じて検討する必要があります。セメントリテインは一般的に審美性が高く、スクリューリテインは高い歪み耐性を持つことが示唆されています。