入れ歯に対して心理的な抵抗のある方は多いです。ブリッジやインプラントにも不安があるという方も多くおられると思います。しかし歯を失った場合の治療法は、入れ歯、ブリッジ、インプラントの3種類しかありませんので、患者さんはそれぞれのメリット、デメリットを比較しながら、担当医とよく相談されて治療法を決めるしかありません。
失った歯が何本あるかにもよりますが、ここでは多くの歯を既に失っている方を対象に、お話をすすめていきたいと思います。
目次
入れ歯にはなりたくないという心理
歯を失った時に、とりあえず保険の部分入れ歯にしてみる方も多くおられます。ブリッジは両隣の歯を削らなければならないし、インプラントは高額なので、金額も安く一番無難そうな入れ歯が選ばれる方もおられます。入れ歯は最初は慣れないかと思いますが、徐々に慣れて快適になれば、そのまま長くお使い頂くことも可能です。
入れ歯にはなりたくないと感じる要因
- 見た目への不安・・入れ歯を装着することで自然な笑顔や表情が損なわれるのではないかという懸念。
- イメージが悪い・・入れ歯は高齢者の象徴とされることが多く、年齢を感じさせる要因になると考えられる。
- 使用時の違和感・・入れ歯が口の中で異物感を引き起こすことや、話す際の不快感が心配される。
- 食事の楽しみの減少・・入れ歯を使用することで硬い食べ物や好きな料理を自由に楽しめなくなる恐れ。
- 手入れやメンテナンスの負担・・毎日の取り外しや清掃、修理などの手間がかかることへの不安感。
- 経済的な負担・・入れ歯の作成やメンテナンスにかかる費用が心配される。
- 発音への影響・・入れ歯が正しい発音を妨げ、コミュニケーションに支障をきたす可能性があると考えられる。
絶対に入れ歯だけは嫌だとおっしゃる方が大勢おられるのも事実です。つけたり外したりという気楽さはあるものの、つけたり外したりしているところを他人に見られたくないという心理が働くようです。また、入れ歯で快適に過ごせるのかという不安も大きく、毎日取り外して丁寧に洗わなければいけないのが億劫だと感じる方もおられます。
口の中とはとてもデリケートで個人的な部分なので、入れ歯は嫌だという心理は痛いほどわかります。そして心理的な抵抗以外にも、入れ歯には実は問題があります。
歯を失った時の治療法にはどんなものがあるのか?
既に多くの歯を失っておられる方の場合、それらすべての歯をブリッジで作ることが出来ない場合もあります。例えば、ブリッジは支えの歯が2本必要ですので、一番奥の歯を失っている場合には、支えが片方ないために、ブリッジは出来ません。その場合の治療方法としては、入れ歯(部分入れ歯)かインプラントになります。
しかし、「入れ歯は嫌だ」とおっしゃる方が多いのは事実です。入れ歯は高齢者の使うものだという意識があり、心理的にとても抵抗があるようです。
「入れ歯は入れると痛みがあるし、噛みにくい」とおっしゃる方もおられます。そのような患者さんには、インプラントをお勧めしています。インプラントは保険がききませんので、治療費は高くなってしまいますが、一番奥の歯を失った方はブリッジには出来ませんし、入れ歯が嫌な方はインプラントしか治療法がありません。
このように、歯を失った場合は治療方法が限られており、ブリッジ、入れ歯、インプラントのどれかを選ばなければなりません。
どの治療法にも長所短所がありますので、じっくり考えてお決めいただけるよう、しっかりご説明しております。
入れ歯はしっかり調整しないと噛んだ時に痛い
新しい入れ歯を初めて入れた時には殆どの場合、噛むと歯茎に痛みが出ます。入れ歯はもちろん歯ぐきに合わせて精巧に作られていますが、保険診療の入れ歯、自費の入れ歯に関わらず、装着時には痛みや違和感がなくても、最初は噛むと痛むのが普通です。
その後、歯科医師が痛みがなくなるように調整を行います。しかし、歯が抜けてから今までの間に何も噛むことがなかった歯茎が、噛むことによる圧力と刺激を感じますので、歯茎の側がある程度それに耐えられるようになる必要があります。
徐々に患者さんの歯茎が噛む時の圧や刺激に慣れ、歯茎が白っぽく頑丈になり、同時に歯科医師の側での調整によって、噛む時の痛みは減っていきますが、それにはある程度の日数と患者さんの我慢が必要です。
患者さんの中には入れ歯で噛むと痛い状態がかなり長く続いてしまう場合があります。そうなると食べること自体がストレスになりますので、せっかく入れ歯を作っても「食べる時には外す」ことになりかねません。噛むために入れ歯をいれたのに、噛む時に外すのでは、本末転倒ですね。
歯科医師側でも全力をあげて患者さんの為に痛くないように調整するのですが、歯茎が、噛んだ時に入れ歯がぐっと食い込んでくる圧力を受け止められない場合は、痛みが続くことになります。これは入れ歯の調整の仕方が悪いとばかりも言い切れないのです。
このように、入れ歯は通常は噛めるようになるまでに日数がかかり、その間、患者さんは食事の際の痛みに耐えなければなりません。
入れ歯はバネをかける歯の寿命を縮めてしまう
隣の歯にバネをかけるタイプの部分入れ歯(保険診療で作れる部分入れ歯)の場合は、初めて入れ歯をつけた時には、その違和感の大きさに驚かれる方が多いです。そして治療をしたにも関わらず、今まで食べていたものが以前のようには噛めないということがストレスになり、大変失望されます。(これは上述しましたように、入れ歯特有の調整期間の問題があるからです)
保険適用の入れ歯は、クラスプと呼ばれる金属製のバネを隣の歯にひっかけて固定させます。このクラスプが思いの外目立つため、他人から入れ歯だとわかってしまうことを気にされる方も多いです。特に人と会うお仕事をされている方に、この傾向は多いです。
噛む時には、クラスプを引っ掛けている歯に力がかかり、何年かするとクラスプを掛けた歯はグラグラしてダメになってしまうという危険が増します。クラスプ以外にも歯に引っ掛けて固定する方法はいくつかありますが、いずれしてもこのタイプの入れ歯は引っ掛ける歯に力がかかりすぎますので、何年か後にはダメになる場合が多いです。
引っ掛ける歯がグラグラして抜歯になってしまったあとは、更に大きな入れ歯が必要になります。そして新しい入れ歯は、最初は痛みが出て調整するということになります。
こうして将来的に歯をどんどん失っていく危険のある入れ歯は、あまりお勧めしたくはありません。とはいえ、高額なインプラント治療を全ての方にお勧めするというわけにもいきません。
では歯が抜けた後の治療はどうしたらいいのか?
繰り返しになりますが、歯を失った時の治療方法は、入れ歯、ブリッジ、インプラントの3種類しかありません。
再生医療での歯をつくる技術が待たれるところですが、まだ実用化といえる段階ではありません。
簡単には決められないかもしれませんが、後々後悔のないように、患者さんにもそれぞれの治療の特徴は把握していただきたいと思います。
入れ歯に関するQ&A
入れ歯は最初は慣れるまで時間がかかることがあります。徐々に患者さんの口腔内に適応し快適に使用できるようになる方と、違和感や痛みがどうしても気になる方に分かれます。
痛みが続く場合は、歯科医師に相談し調整を行ってもらう必要があります。それでも痛みや違和感が消えない場合は、インプラント治療を受ける方もおられます。
隣の歯にバネをかけるタイプの部分入れ歯では、クラスプが隣の歯に力をかけるため、その歯の寿命を縮める可能性があります。
まとめ
ブリッジや入れ歯を様々な面から比較して、最終的に患者さんがインプラントを希望されたとしても、骨や歯茎の状態が良くない場合は、すぐに手術をすることが出来ません。その場合は、治療内容を担当医と十分に話し合って、今後の治療方針を決めていただくことになります。
患者さんお一人おひとりの事情に一番合った方法を、一緒に考えて決めていきますので、ご安心下さい。