インプラントの基礎知識

インプラントにフッ素入りの歯磨き剤を使ってもいい?

インプラントにフッ素入りの歯磨き剤を使ってもいい?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

インプラント治療後にフッ素入りの歯磨き剤を使ってはいけないという風潮がありましたが、現在では大丈夫ということになっていますので、ご説明したいと思います。

インプラントはフッ素入りの歯磨きでケアしても大丈夫

歯磨き

インプラント治療後の歯みがきを、フッ素入りの歯磨き剤で行ってはいけないと聞いたことがあるかもしれません。

高濃度のフッ素はインプラント体の原材料であるチタンを腐食させるため、フッ素入りの歯磨き剤は使ってはいけないと言われ始めたのですが、実際には歯磨き剤に含まれるフッ素濃度には上限があり、しかもお口の中では唾液によって薄まるため、チタンに影響を与える程の濃度にはなりません。

日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会の平成27年の見解によると、「フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」とのことで、フッ化物配合の歯磨き剤を使用することは、チタンへの細菌や歯垢の付着を抑制し、フッ化物による虫歯抑制効果は証明されているとして、健康な天然歯を虫歯から守るためにフッ素入り歯磨き剤の使用を積極的に行っていこうということになりました。

フッ素入り歯磨き剤はインプラントに好ましくないという報告も・・

フッ素入り歯磨き剤

しかし、2016年の日本口腔インプラント学会学会誌によると、同学会の学術大会で、「歯磨き剤は粘性が高いため、歯垢が付着している部分に歯磨き剤が触れた直後には、フッ素濃度やpH、酸素濃度が一時的にチタンが腐食する条件に合致する可能性は否定できない」とする発表が行われたとあります。

逆に、歯磨き時のフッ化物濃度は低く、pHもチタンが侵襲されるほどにはならないことから、フッ化物配合の歯磨き剤を使わないことによる虫歯リスクの方が大きいと考えられるため、インプラント利用者にもフッ化物配合歯磨き剤の利用を推奨する、という発表も為されています。

インプラントにフッ素配合の歯磨き剤を安全に使うには・・

これらの内容から、歯みがき開始直後に、歯磨き剤が直接チタンに触れないように、天然歯から順番にブラッシングしていき、インプラント埋入部分は最後にブラッシングするなどの工夫をしながら、安全に歯磨きをする、という方法をお勧めします。

インプラントとフッ素入りの歯磨き剤に関するQ&A

インプラント治療後の歯磨きでフッ素入り歯磨き剤を使っても大丈夫ですか?

フッ素入り歯磨き剤の使用は問題ありません。フッ素濃度は歯磨き剤に含まれる限られた量であり、唾液によって薄まるため、チタンに悪影響を及ぼすほどの濃度にはなりません。

フッ素入り歯磨き剤はインプラントに悪影響を及ぼすと言われていましたが、現在は大丈夫なのですか?

現在の研究では、フッ素入り歯磨き剤の使用はインプラントには安全です。フッ素の濃度やpHはチタンを腐食させるほど高くなく、むし歯予防の効果もあります。

インプラント治療後、フッ素入りのマウスウォッシュを使っても大丈夫ですか?

フッ素入りのマウスウォッシュの使用も問題ありません。歯磨き剤と同様にフッ素濃度は制限されており、通常の使用ではチタンに悪影響を及ぼすほど高くなりません。ただし、メーカーの指示に従って使用することが重要です。

まとめ

上記のように、インプラントにフッ化物配合の歯磨き剤を使用しても良いかどうかは、見解が分かれます。現在では、歯磨きの仕方を工夫することによって、フッ化物配合の歯磨き剤を使ってもインプラントに対してリスクの少ない歯磨きが可能、という意見が大勢のようです。

フッ素入りの歯磨き剤がチタンの表面に与える影響に関する研究があります。一つの研究では、フッ素入りの歯磨き剤やフッ素入りのジェルがチタン表面の酸化チタン層にどのような影響を与えるかを調査しました。この研究では、フッ素含有量が9000 ppmを超えるフッ素軟膏にチタンを曝露した後、チタンの著しい腐食が確認されました。さらに、フッ素濃度が1000 ppm以下のフッ素入り歯磨き剤に3日間浸した場合、コントロールに比べてチタン表面の粗さが顕著であることが観察されました。特に、酸性環境下でフッ素が存在する場合、チタン表面の腐食ダメージはさらに大きくなることが示されました。【Gomi et al., 2014

別の研究では、フッ化物イオンがチタンおよびチタン合金の保護酸化層に対して唯一の攻撃的なイオンであると述べられています。フッ化物イオンの存在は、局所的な腐食劣化を引き起こす可能性があります。歯磨き粉や予防用ジェルなどの衛生製品にはフッ化物イオンが含まれているため、この研究はフッ化物イオンがチタンや歯科用合金にどのような影響を与えるかを評価することを目的としています。研究結果に基づき、フッ化物イオンを含む歯磨き粉や予防用ジェルがチタンインプラントや上部構造に使用される場合、腐食劣化を引き起こす可能性があることが示唆されました。【Reclaru & Meyer, 1998

これらの研究結果から、フッ素入りの歯磨き剤の使用はチタンインプラントの表面に影響を及ぼす可能性があるため、慎重に使用する必要があります。インプラントのケアには、フッ素を含まない歯磨き剤の使用を検討することが推奨される場合があります。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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