インプラントの基礎知識

インプラントの寿命を長くするためには?

インプラントの寿命を長くするためには?

インプラントは、失った歯を補う最も自然で機能的な方法の一つです。天然の歯そっくりの見た目、違和感のない噛み心地などの特徴により、インプラントは多くの人々に選ばれています。しかし、インプラントを長く保つためには適切なケアが必須ですので、ご説明します。

インプラントの寿命はどのくらい?

インプラント

インプラントの平均的な寿命は、患者さんの口腔衛生状態、インプラントが埋入された位置、使用される材料、そして何よりも患者さんが行う毎日のケアに大きく左右されます。

インプラントが歯科医院での定期的なメンテナンスと毎日のデンタルケアによって適切に管理されていれば、インプラントは20年以上機能することも珍しくありません。しかし、これは最適な条件下での話であり、実際にはさまざまな要因がインプラントの寿命を縮めることもあります。

インプラントの寿命に影響を与える要因

1. 口腔衛生の状態はどうか

インプラントは天然歯と同じように毎日歯磨きを欠かさず行うことが重要です。清掃が十分でないと、インプラントの周囲にも歯垢がたまり、歯垢の中の細菌が出す毒素によってインプラントの周囲の歯茎に炎症がおこります。

この症状をインプラント周囲炎といいますが、これはインプラントの寿命を短くする主要な要因となります。

2. 喫煙習慣の有無

タバコに含まれるタールやニコチンなどの有害物質は、口腔内の血流を悪化させ、免疫力を低下させます。喫煙者の場合、インプラントと骨の結合に時間がかかるケースが多くみられ、インプラント埋入後の歯茎の治癒も遅く、最終的にはインプラントの失敗につながることがあります。

3. 全身疾患の有無

糖尿病や骨粗鬆症などの全身疾患は、インプラントの骨への統合を妨げ、インプラントの寿命を短くする可能性があります。

4. 咬合力が過剰でないか

歯ぎしりや食いしばり、噛みしめなどの癖がある場合、インプラントに過剰な力がかかります。その結果、インプラントの寿命を短くさせることがあります。また、歯ぎしりは大きな力で歯を揺らすため、インプラントがグラグラして寿命が短くなることがあります。

5. インプラントの埋入位置は適切か

インプラントの埋入位置が適切でない場合、インプラント体と周囲の骨や組織との結合が不十分になり、長期的な安定性に影響を与えることがあります。

インプラントを長もちさせるためには

1. 定期的なメンテナンス

定期的なメンテナンスと専用の器機を使ってのクリーニングにより、インプラント周囲から歯垢を除去して歯茎の健康を維持し、インプラント周囲炎を予防します。

2. 毎日のデンタルケア

毎日の適切なブラッシングとデンタルフロスの使用により、インプラント周囲への歯垢の蓄積を最小限に抑えることが重要です。

3. ライフスタイルの改善

タバコを減らす、健康的な食生活などにより、全身の健康状態を良くするためのライフスタイルの改善もインプラントの長もちに影響があります。

インプラントの寿命を延ばすためのケアについて

インプラントのケア

インプラントの寿命を延ばすための適切なケアは、インプラントを長期間にわたって健康な状態で機能させるためには大変重要です。インプラントのケアの具体的な方法と日常生活での注意点をご紹介します。

日々のお手入れ方法

1. 正しいブラッシング

柔らかい歯ブラシを使用し、インプラントと天然歯の両方を丁寧に磨いて汚れを除去します。インプラント周囲の歯茎を強く擦らないように、優しくケアすることが重要です。

2. デンタルフロスの使用

インプラント周囲に歯垢がたまるのを防ぐため、デンタルフロスを使用して、歯と歯の間やインプラントの周囲を清掃します。

3. 歯間ブラシの活用

インプラント周囲や歯と歯茎の間など、通常のブラッシングでは届きにくい部分の清掃に歯間ブラシを使用します。歯間ブラシは適切なサイズを選び、決して歯茎に強く当てないように使用することが重要です。

定期的な歯科健診の重要性

1. プロフェッショナルクリーニング

歯科衛生士による定期的なクリーニングは、プラークや歯石を徹底的に除去し、インプラント周囲の健康を保つのに役立ちます。

歯と歯の間や歯と歯茎の間には、毎日のデンタルケアで落としきれなかった歯垢がついている場合があります。また、歯石は歯磨きでは落とせない為、歯科衛生士に削り取ってもらう必要があります。

2. 定期健診

定期的な歯科健診により、インプラントの状態や歯茎の健康をチェックし、問題を早期に発見して対処することができます。他の天然死に対しても同様にチェックを行い、虫歯や歯周病の早期発見、早期治療につとめましょう。

ライフスタイルの調整

1. 喫煙を避ける

タバコにはニコチン、タールなどの有害物質が含まれ、血流を悪くしたり免疫力を低下させ、傷の治りを遅くします。インプラント治療をする際にタバコは大きなリスクとなるため、インプラント治療を受ける方は禁煙することが推奨されます。

2. バランスの取れた食生活

健康的な食生活は全身の健康だけでなく、口腔内の健康にも寄与します。特に、カルシウムやビタミンDを含む食品は、骨の健康を支え、インプラントの安定にも役立ちます。

インプラントに負担をかけない

1. 硬い物の噛み過ぎを避ける

インプラントは硬いものでも噛めることが特徴です。しかし過度に硬い食べ物や氷を噛むことは、インプラントに過剰な力を加えることになり、インプラントを損傷するリスクを高めるため、避けましょう。

2. 歯ぎしりや食いしばりの対策

夜間の歯ぎしりや食いしばりはインプラントに大きな圧力をかけます。インプラントは耐久性に優れていますが、歯ぎしりのように強い衝撃がかかり続けると破損する可能性があります。

また、歯ぎしりによって歯が揺さぶられると、少しずつ歯茎が退縮を起こして下がってしまいます。歯茎が損傷すると炎症が起こりやすくなり、インプラント周囲炎を発症するリスクも高まります。

歯ぎしりの癖のある方は、夜間にナイトガードと呼ばれる透明のマウスピースをつけて寝て頂くことで、歯を強い力から守ることが出来ます。

これらのケアを日常生活に取り入れることで、インプラントの寿命を延ばし、長期間にわたってその機能と見た目を保つことができます。

インプラントの寿命を長くする方法に関するQ&A

インプラントの寿命を長く保つためにはどのような日常のお手入れが必要ですか?

インプラントの寿命を延ばすためには、正しいブラッシング方法で柔らかい歯ブラシを使用し、デンタルフロスや歯間ブラシを活用してインプラント周囲の歯垢を取り除くことが重要です。これにより、インプラント周囲炎を予防し、健康な状態を維持することができます。

インプラントの定期的なメンテナンスとは具体的に何を指しますか?

インプラントの定期的なメンテナンスには、専用の器機を使ったプロフェッショナルクリーニングと、定期健診が含まれます。これにより、歯垢や歯石を徹底的に除去し、インプラント周囲の歯茎の健康を保つことができます。また、インプラントの状態や歯茎の健康をチェックし、問題を早期に発見して対処することができます。

喫煙はインプラントの寿命にどのような影響を及ぼしますか?

喫煙はタバコのタールやニコチンなどの有害物質が口腔内の血流を悪化させ、免疫力を低下させるため、インプラントと骨の結合を遅らせ、歯茎の治癒を遅くします。これにより、インプラントの失敗リスクが高まり、寿命が短くなる可能性があります。

まとめ

インプラントの寿命を長くするためには、毎日の丁寧なセルフケアと定期的な専門的メンテナンスが不可欠です。正しい方法で歯磨きを行い、デンタルフロスの使用、プロフェッショナルクリーニング、そして健康的なライフスタイルの維持により、インプラント周囲炎のリスクを最小限に抑え、インプラントの美しさと機能を長期間維持することが可能です。

「歯科インプラントの寿命」に関する論文の引用を2件示します。

1. インプラント支持固定義歯の生存率と合併症率**:平均観察期間が5年以上のインプラント支持固定義歯の系統的レビューを行った研究¹。インプラントの生存率は96.8%,インプラント支持固定義歯の生存率は93.4%であった。主な合併症は,技工物の破損,インプラント周囲炎,骨吸収などであった。

2. インプラント治療後20年以上経過した患者のアンケート調査**:九州インプラント研究会に所属する歯科医師によって治療された1,168名の患者に対してアンケート調査を行った研究²。回答者の78%がインプラントに何も問題ないと答え,84%が何でもよく噛めると答えた。また,93%がインプラント治療に満足していると答えた。

Pjetursson BE, Thoma D, Jung R, Zwahlen M, Zembic A. A systematic review of the survival and complication rates of implant-supported fixed dental prostheses (FDPs) after a mean observation period of at least 5 years. Clin Oral Implants Res. 2012;23:22-38.

森永 太,伊東 隆利,阿部 成善,添島 義樹,土屋 直行,松井 孝道,飯島 俊一,川口 和子. 20年以上経過したインプラント患者のアンケート調査. 日口腔インプラント誌. 2018;31:50-70.

【参考URL】
(1) 日本口腔インプラント学会 第30巻 4号 – J-STAGE.
(2) 日本口腔インプラント学会 第31巻 2号 – J-STAGE.
(3) 「ブリッジ」と「インプラント」の寿命(生存年数) 〜その ….
(4) 補綴歯科治療は生命予後の延伸に貢献できるか? – J-STAGE.
(5) 8020に 対する歯科補綴学的文献レビュー – J-STAGE.

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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