インプラントの基礎知識

前歯のインプラントはどうして難しいの?

前歯のインプラントはどうして難しいの?

大阪インプラント総合クリニック 歯科医師 松本 正洋

前歯のインプラントは一般的に審美性という難しさがあります。前歯のインプラントが奥歯と比べて難しいといわれる点についてご説明します。

前歯のインプラントが難しい原因

笑顔の女性

前歯を虫歯や歯周病などで失ってしまった時の治療の選択肢にはブリッジ、入れ歯、インプラントがあります。インプラント自体が特別な技術を要する治療であり、難易度は高いのですが、その中でも前歯のインプラントは他の歯へのインプラントとは違った難しさがあります。

1. 審美面の要求が高い

自然な見た目を再現する難しさ

前歯は非常に目立つ位置にあるため、見た目の自然さが重要です。インプラントの色調や形状が周囲の天然歯と違和感なく調和することが求められますが、これを実現するには高度な技術が必要です。また、歯茎のラインや形状も、審美的な仕上がりに大きく影響を与えるため、細部にわたる調整が必要です。

前歯を失ってインプラントにしようとしたときに、一番に求められるのは見た目のきれいさ、つまり審美性が高く美しいかどうかです。そのため前歯のインプラント手術には手術自体の技術が必要であると共に、前歯の歯茎のラインが自然に美しく見えるようにする審美的な技術が求められるなど、様々な難しい点があります。

前歯インプラントに求められる審美的な要素

  1. 隣接する歯と左右対称に見えるようにする
  2. 歯と歯の間の三角の歯茎(歯間乳頭)がバランスのいい状態である
  3. 上部構造の根元の金属が露出せず歯茎に隠れている
  4. 歯茎に金属部分が透けて見えていない
  5. 歯茎の縁のボリュームや高さが自然で周囲の歯と調和している

2.インプラントを埋入する為の骨量が足りない場合が多い

インプラント体

インプラントでしっかり噛める歯を作るためには、まずインプラントを埋入するために必要が骨量が十分にあるかどうかが問題になります。

骨が少ない場合にはインプラント体が骨と結合しにくく、また骨の厚さや幅が足りない場合に無理にインプラントを埋入すると、インプラント体の先端が骨を突き抜けて歯茎側に露出したり、上顎洞と呼ばれる頬の裏側の空洞の部分に突き抜けてしまったりします。

歯がない期間が長ければ長いほど、骨は痩せて少なくなっていきますので、歯を失ってから長い年月が経っている方は骨が足りない可能性があります。その場合は増骨の処置が必要になり、治療期間、費用共に多くなります。

日本人の顎骨は欧米人と比べると上顎の骨の量が少なく、また女性は男性よりも骨が薄く華奢であることが多い傾向にあります。そのため日本人女性はインプラントをするには骨の量が不足しているというケースが多くあります。しかし増骨の手術をすればインプラントが可能になる場合が多いので、ご安心ください。

骨の不足が多い部位

前歯の部分は他の部位と比較して骨の厚みが限られていることが多く、インプラントを正しい位置に安定して埋め込むために、事前に骨移植が必要になる場合があります。特に、前歯を失ってから時間が経過している場合、骨が痩せているケースが多いため、骨移植やサイナスリフトなどの前処置が必要となります。

▼上顎のための骨造成手術に関してはこちらで詳しく解説しています。

3. 噛み合わせの微調整が重要

咬合力の管理

前歯は奥歯に比べて力のかかり方が異なるため、噛み合わせの微調整が非常に重要です。強い力が前歯のインプラントにかかると、インプラントが緩んだり、最悪の場合、失敗することがあります。そのため、インプラントの設計段階から、噛む力が適切に分散されるように考慮する必要があります。

咬合のバランス

前歯の噛み合わせが不適切だと、他の歯や顎に負担がかかり、顎関節症などの問題を引き起こす可能性があります。

4. インプラントの位置と角度の難しさ

正確な埋入が求められる

前歯のインプラントは、わずかな角度のズレでも審美面や機能に大きな影響を及ぼします。歯科医師は、CTスキャンやデジタルプランニングを活用し、インプラントの最適な位置と角度を計算して埋入する必要があります。特に、前歯のインプラントは他の歯と正しく噛み合うように設計される必要があり、精密さが求められます。

5. 治療後のメンテナンスが重要

メンテナンスの難しさ

前歯のインプラントは目立つため、審美面を維持するために定期的なメンテナンスが欠かせません。特に、歯茎の状態を良好に保つことが大切で、歯茎の腫れや炎症がインプラントの失敗に繋がることがあります。患者は術後のケアを徹底し、インプラント専用のブラシやフロスを使用することが推奨されます。

笑顔の女性

抜歯の前にその後の治療法も検討する

抜歯の予定がある方は、抜歯後にどのような治療で抜けた歯を補うのかを考えておく必要があります。その後の治療法を決めずに抜歯を行った場合、抜歯後に治療せずにそのまま放置してしまう可能性があるからです。

歯がない状態で放置すると骨の吸収がどんどん進んで、骨が減っていきます。何年かしてインプラント治療をしたいと思っても骨が足りないため、まず骨造成の処置をしなければインプラントを埋入出来ないということになってしまいます。

それだけでなく、噛むときに他の歯に負担をかけたり、抜けた歯のスペースに歯が動いて噛み合わせに影響したりする場合もあります。

抜歯が必要になった段階で、抜歯後の場所をどの治療法で補うのかを主治医としっかり相談することが大切です。

前歯のインプラントの上部構造の材質について

前歯のインプラントはより美しい審美性が求められます。天然の歯と殆ど違いがわからないくらい自然な前歯を再現するためには、オールセラミックかジルコニアそおすすめします。

どちらも審美性、耐久性ともに優れており、表面に歯垢がつきにくい素材です。

ジルコニア冠

ジルコニアセラミッククラウン

ジルコニアは歯科で使用される材料の中で最も硬くて強い材料で、人工ダイヤモンドとも呼ばれます。欠けたり割れたりといったトラブルが少なく、変色や劣化が起こりません。

ジルコニアは形成が難しい材料なのですが、熟練した歯科技工士により患者様お一人おひとりに合わせて上部構造を形成し、自然に見えるようにグラデーションなどの彩色を施してでより美しく仕上げます。

オールセラミック冠

ジルコニア冠に次ぐ天然歯と見分けがつかないくらい美しいセラミックの被せ物です。前歯の被せ物として一般的に良く使われる材料です。

前歯のインプラントの症例

当院のインプラント治療で美しい前歯を取り戻した症例です。詳しくはリンク先をご覧ください。

症例1:骨移植後前歯にインプラントを埋入

骨移植後に前歯にインプラントを埋入

右上1番の歯根破折(歯の根が折れている)により抜歯し、骨移植、歯肉移植を行ってからインプラントを埋入しました。

治療方法

歯の根が折れていたため、抜歯して骨移植、歯肉移植を行い、インプラントを埋入しました。

費用

・骨移植 ¥100,000 (税抜) ・歯肉移植 ¥80,000 (税抜)・ 静脈内鎮静法 2回 ¥140,000 (税抜) ・インプラント ¥250,000 (税抜) ・セラミックアバットメント ¥60,000 (税抜) ・ジルコニアセラミック冠 ¥120,000 (税抜)

リスク

インプラントは自由診療なので保険適応の治療と比べて治療費が高額になります。インプラントが骨と定着するのを待つ期間が必要なので治療期間が長くなります。手術後に腫れることがあります。

症例2:骨移植後前歯にインプラントを埋入

骨移植後前歯にインプラントを埋入

かかりつけの歯科医院にて前歯を抜歯した際に、歯茎と骨が大きく陥没してしまいました。ブリッジをすすめられたものの、陥没した部分がきれいにならないと見た目が良くないので、当院に相談に来られました。陥没部分をきれいに再生するために骨移植と歯肉移植を行い、インプラントを埋入しました。

治療方法

陥没している部分に骨移植を行い、骨を増やしました。その後インプラントを埋入して、セラミックのかぶせ物を取り付けました。

費用

・骨移植 ¥100,000 (税抜)・歯肉移植 ¥80,000 (税抜)・静脈内鎮静法 ¥70,000 (税抜)・インプラント ¥250,000 (税抜)・セラミックアバットメント ¥60,000 (税抜)・ジルコニアセラミック冠 ¥120,000 (税抜)・仮歯 ¥30,000 (税抜)

リスク

インプラントは自由診療なので保険適応の治療と比べて治療費が高額になります。インプラントが骨と定着するのを待つ期間が必要なので治療期間が長くなります。手術後に腫れることがあります。

前歯のインプラントはなぜ難しいのかに関するQ&A

前歯のインプラントはなぜ難しいのですか?

前歯のインプラントは他の歯へのインプラントと比べて審美性が重要な要素となるため、手術自体の技術だけでなく、見た目の美しさを再現する審美的な技術も求められます。前歯は笑顔や会話時に目立つ部分であり、自然な歯茎のラインや形状、色合いを再現する必要があります。

前歯のインプラントの審美性にはどのような要素が重要ですか?

前歯のインプラントの審美性には以下の要素が重要です。 1.隣接する歯と左右対称に見えること 2.歯と歯の間の三角の歯茎(歯間乳頭)がバランスの取れた状態であること 3.上部構造の材質や形、色にこだわり、自然な見た目を実現すること

前歯のインプラントの上部構造の材質は何がおすすめですか?

前歯のインプラントの上部構造の材質としては、オールセラミックとジルコニアがおすすめです。これらの材料は審美性と耐久性に優れており、自然な見た目を再現することができます。ジルコニアは特に硬くて強い材料であり、優れた耐久性を持っています。

まとめ

前歯のインプラント治療がどうして難しいのかについてご説明しました。インプラントはもちろん噛むという目的も重要ですが、前歯においてはいかに天然歯と見分けがつかないくらいに美しく作れるかという審美性も大切です。そのため歯科医師や歯科技工士の技術によって仕上がりの満足度が変わります。

まずインプラントの初診相談でインプラント治療の説明を受け、治療内容や治療後のメンテナンス、保証についても納得してから治療をお受け下さい。

▼前歯のインプラントについてはこちらで詳しく解説しています。

 

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。インプラントの認定多数。IDIA(International Dental Implant Association国際インプラント歯科学会)認定医。I.A.A国際審美学会理事。日本抗加齢医学会認定専門医(日本アンチエイジング学会)。

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